天賦の才を持つものは、その才を発揮する分野にかけては、周囲の凡才を突き放す。
それは、分野にかけて、の話。
だからこそ、助手の少女はそれを補うべく、あらゆる知識を取り入れたいとおもっていたが、今回ばかりはそれが裏目に出てしまったと言えよう。
聖夜の前夜祭。
こんかいの依頼者のいる大学病院が夢の国の近くであり、その施設内にはいらなくとも、その最寄りの駅前のイルミネーションが素晴らしいのだという情報を仕入れたのが、ひと月前の朝の番組だ。
病院は、駅の中間地点にあり、夢の国最寄駅に行けない事もない。
そんなわけで、せめてそのイルミネーションを見たいと思い、病院を出て数十分。
結果としては、前夜祭をなめていました。
夢の国からの帰宅者と思われる人が溢れかえり、入場規制がかかっているのであった。
これでは、イルミネーションどころか、帰宅できるかもあやしいところだ。
「ちぇんちぇい、ごめんちゃ…ちゅかれてるのに…」
がっくりと声を落とす少女は、うなだれて謝罪の言葉を口にする。
「まあ、仕方ないだろう、今日は」
はぐれないように手を掴み、天才外科医は空を仰ぐ。
なんとまあ、世の中にはこんなに健康な人間がいるものか、と医者らしからぬことを考える。
「明日以降は特に依頼もないからな、戻ってタクシーでも呼ぶか」
「んん〜情緒ない……れも、あ、ちょーだ」
ぽん。少女は手を叩いてサイドバックから自分のiPhoneを取り出して、画面を操作する。
5分程してから、少女はにっこりと笑って「ちぇんちぇい」と言った。「ことちのぷれぜんとは、ルミナリエをいっちょにみゆことにする」
「ルミナリエ?」
「ちょ!」
一度離した手を少女は、再び掴んだ。
そして、ぐいぐいと引っ張いく。
「おい、どこに行くんだ」
「バスターミナル」少女は言った。「神戸・三ノ宮行きの深夜バスがとれたよのさ」
「…そうか」
「とりあえず、今から神戸に向かって、ピノコとデートするよのさ」
「…そうか」
そうきたか。
天才外科医は小さく笑う。なんというルートだ。
しかし、悪くない。
「バスにのるまえに、ラーメンたべよ、ちぇんちぇい」
「…わかった」
今すぐ帰宅する用事もない。帰宅する理由は、ここにいる。
ならば、仕事が終わった事だから、小旅行もたまにはいいとは思う。
「今年は、ケーキなしか」
「ちかたないですよー。ちぇんちぇいが、24日前後にちごとをいえるからー」
「味気がないないな」
「じゃあ、帰ったら、ちゅくるよのさ」
とりあえず、今からラーメンを食べに行こう。
それから、君と、バスに乗る。
そんな、今年のクリスマスの過ごし方。
-了-
2016.12.25 コウこと7月の氷