一緒にお節を食べましょう


 




  系列の大学病院からの招集は、新型ウィルス感染症の特別病棟勤務の交代要員。
 すでに内科医師の顔色は土気色であり、他科の医師がローテーションで入る。
 辰巳が呼ばれたのは、救急の経験と独り身であると言う理由からでもあった。
 それでなくとも、この新型感染症による医療の混乱は凄惨を極め限界の値を何度も更新した。
 それは、医療者および間接医療従事者はもちろんのこと、地域医療を担う訪問系の医療から、地域副サービスの限界までも意味する。
 マスコミは最前線を取り上げたがるが。
 そして、1ヶ月間の連勤を終え、たった1日であるが休日を得ることが出来て、辰巳は1カ月ぶりに病院の外へ出た。
 この1ヶ月は病院から出る事が叶わず、今日の外出だって、3度の検査をパス出来たからだ。
 とはいえ、年明けの今日にいきなり解放されたところで、どうしたものかと、玄関ロビーの椅子に座って途方に暮れる。
 年末年始休業の為、表玄関に人影はまったくない。
 と。
 大きなガラス張りの自動ドアの向こうに、懐かしい二人の顔が見えた。
 黒い外套を纏う男性と、ピンクのコートを着こなす少女だ。
 この組み合わせは、傍から見れば異様であるが、辰巳には馴染みある風景だ。
 旧友と、そのオクタンだ。
「どうしたんだ、間、ピノコちゃん!」
 警備員に声をかけて、手動で自動ドアをこじ開けた。
 少女は、ぴょこんと頭を下げて「あけまちて、おめでてとうなのよさ!」と新年のあいさつをくれる。
「ああ、今年もよろしく、ピノコちゃん」
 お互いに。携帯用アルコール消毒ボトルからジェル剤を手のひらに出しながら、挨拶を交わす。
「仕事でね」
 旧友は笑いながら、口を開く。「例の感染症のせいで遅れに遅れている再手術だ」
「ああ、13階の……」
「ちょのまえに」
 少女は、じゃーん!と声に出しながら、大きな包みを辰巳に突きつける。「お節料理とアクリルボード持参なのよさ!」
「へ?」
「一緒に、お節、たべまちょ?」
「へええ!?」
 思わず、辰巳は旧友を見た。
 旧友は辰巳からの視線から顔を逸らしながら「今日、お前が当番明けだと言ったら、お節を一緒に食うといってきかないんだ」
「それは、悪かったね、間。でも、すごくうれしいよ」
「みんなで食べれば、元気になれるのよさ!」
 ピカピカの少女の笑顔と、そのお節を食べれば何でも乗り越えられるような気がする。
 一先ず、食堂に行って、食べようということになった。
 
 今年も、どうか、こんな風な時間がたくさん訪れますように!



-完-

2021.1.1掲載 不良保育士コウ

知人の脳外医師から聞いた話だ