※アニメ設定なので、ロミちゃんが存命しております
そこは、数年前に出来た、ガーデンウェディングハウス。
何もない海辺の町の丘にあるそれは、美しい海を一望できるオーシャンビューウェディングという謳い文句を掲げて有名リゾート会社が建設したのだ。
それまで、工場の排水汚染のよる公害病という暗いイメージでしかなかった海辺の町のイメージを、その丘の上の祝福をあげる為のそれが、一掃させてくれたのだ。
今日も、祝い事の鐘が町へと響き渡る。
いつもであれば、近隣の若者の式であることが多く、今日もめでたい事だねえと言うだけであったが、今日は違った。
海辺の町の人間のほとんどが、今日はこのオーシャンビューウェディングに参加している。
今日の花嫁は、この海辺の町出身の女性であったからだ。
幼い少女と、黒衣の男性が、花嫁の控室を訪れたのは、式の始まる数時間前であった。
本来であれば、親族のみが通されるそこに、二人は当然の如くに通された。
何故なら、彼らは花嫁の命の恩人であるのだから。
「ろーみたーん!結婚、おめでとー!!」
レモンイエローの明るいドレスを纏った少女が、花嫁に抱き着いた。
すでにウェディングドレスを花嫁は纏っていたが、それにも構わず、大きく腕を広げて、少女を愛おしそうに抱きしめ、破願した。
「ピノコちゃん!来てくれたのね、嬉しい!!」
「ロミたんの結婚式らもん、ちきゅうの裏側からでも駆けつけるよのさ!」
少女はお道化て、ちらりと後方にいる天才外科医の方を見る。
事実。二人はヨーロッパはロンドンより、今日、この時間に間に合う様に帰国した。
その過程は、幾つかの犯罪に抵触するので、ここでは割愛しておこう。
「まあまあ、先生、お忙しいところを、ロミの為にありがとうございます」
留袖の女性が天才外科医の所まで進み出て、頭を下げる。その眼は、涙に濡れて、真っ赤であった。
「本当に…先生のお蔭で…ロミをお嫁に出すことが出来ました…本当に、なんとお礼を申せば…」
「お母さん。私はロミさんの手術をしましたが、その後の事は、全てロミさんの力だ。私だけの仕事ではない」
言葉に甘んじることなく、事実を天才外科医は告げる。
そして、天才外科医は花嫁を見た。
初めて彼女に出会った時は、助手の少女とまったく同じ背丈であった。
今では、まるで親子の如くの差がある。だが、少女と彼女の間柄は変わることがなかった。
だから。彼女が少女を式に呼び、証人をしてほしいと頼み、少女が快く引き受けたのも、二人の間では、ごく当然のことであった。
帰り道。
特別にチャーターしたプライベートジェット機に搭乗し、ロンドンへ向かう機内。
「きえいらったねー!」
プリントした写真を眺めながら、少女はほくほくの笑顔で言った。
少女も僅かながらの成長をしてはいたが、ロミ程ではない。
初対面当時は、まるで双子のような二人であったが、年を重ねる毎に、ロミは美しく成長し、ピノコはいつまでも少女のままだった。
その現実を目の当たりにした時の精神面を、天才外科医は随分と危惧していたが、少女はロミのお姉さんであり、ロミもピノコをお姉さんのように慕っていた。
その結果が、今日の結婚式と言えよう。
「よかった」
ライスシャワーを浴びる、花嫁と花婿の姿を見て、少女は消え入りそうな声でつぶやいた言葉を、天才外科医は聞いていた。
それはまさに、心配していた幼子が無事に成人したことを喜ぶ、年上の女性の響きであった。
「ちぇんちぇい、ピノコとのけっこんちきは、教会らなくていいよのさ」
「え?」
少女の言葉に、天才外科医は僅かに瞠目する。少女はにっこりと笑っていった。「らって、ちぇんちぇいは、はじゅかしいでちょ?だから、誓いのきちゅだけでいいのよさ」
「……そうか…」
「証人は、ロクターがいいかちら?」
「なんでキリコが証人なんだ。死神がいたら不吉だろ」
「えー?じゃあ……」
「証人なんかいらないだろう。要は、誓えばいいんだから」
「ちょっか」
少女が笑ったところで、着陸態勢に入るとのアナウンスが入り、二人はシートベルトを締める。
降り立ったら仕事がまっているのだ。
-完-
2015.7.25 7月の氷(コウ)
※先生の発言は無意識です(笑)