今年のバレンタインの話


 




 気紛れと暇つぶしの両立としてはじめたのが、料理レシピ募集サイトへの投稿。
 これがなかなか面白くて、最近の少女の楽しみの一つだ。
 今月は、やっぱりバレンタイン用のチョコレートの作り方。
 少女は自慢のレシピを投稿する。出来上がりの写真も添えて。

「我ながら、いい出来なのよさ」

 ”ピノコ特製、簡単ハートチョコ”と名付けて、投稿する。
 ”簡単”の二文字をいれると、アクセスとイイネの数が伸びる。
 まあ、実際に簡単に出来るものではあるが。

 そして、現実には、ハートチョコを一人で食べる少女がいる。
 先ほどサイトに投稿したチョコ。自信作のそれは、やっぱり美味しい。
 時々、ちらりと携帯電話の画面をみる。
 サイトへ投稿した後、その画像をSNSで送信したのだ。
 その画面は、まだ、変化はない。
 仕方がない。だって、時差が9時間程ある。
 そう思いつつも、それでも。
 不意に、画面に変化。吹き出しの横に”既読”の二文字。
 あ、と思った途端に、着信。少女は慌てて携帯電話を手に持った。

「もちもち!?」
「…おい、今年はチョコレートなしなのか」

 寝ぼけた様な、天才外科医の声。思わず吹き出してしまう。

「ちょーですよ!14日に日本にいない人が悪いんら」

 上から目線な物言いをしてみせると、受話器の向こうで押し黙る空気。

 怒らせたかもしれない。少女は慌てて、冗談だという旨を伝えようとする、と。
「…ノイハウス…」
「え?」
「…バレンタイン限定の…なんだったかな……と…”クピン オ フリュイ”…で、どうだ…」
「お土産!?」
「ああ」
「やったー!!ちぇんちぇい!あいちてゆのよさー!!」
「現金な奴だな」
 天才外科医の最後の言葉は笑っていた。
 短い電話。でも、声が聞けただけ、マシ。
 電話を切ってから、少女はため息交じりに呟く。

「ちぇんちぇいへのチョコレートがないわけ、ないのよさ」
 帰宅したら作るのだから。
 アツアツの出来立てのハートをあげるために。


-完-

2016.2.14

2016.2.29 改稿 7月の氷(コウ)

2月14日と言えば、BJ先生が本間血腫に挑んで敗れた日ですな