今日はお昼を過ぎると、たくさんのプレゼントが岬の家に届いた。
先ずは、予告どおりに死神の化身から、有名店のスィーツ詰め合わせ。
以前、ヌイグルミを送ったら、天才外科医が恐ろしい形相で怒鳴り込んできたという、
命懸けの教訓を生かしてのチョイスであることを、少女は知らない。
そして次には、辰巳先生から、可愛いカードと最近少女がお気に入りの俳優が出演しているドラマのDVDBOXだった。
これは、少女が予め、辰巳先生にお願いしたものだった。
”ごめんね、10日はいけなくて”
すまなそうな電話が、やはり昨夜掛かってきた。
気にしないで、と笑って返したが、その言葉は、10日は一人で過ごすことが決定したことも現している。
仕方がないのだ。だって、仕事の方が大事だ。
特に、先生も辰巳先生も医師だ。
生命に関わる仕事なのだから、プライベートよりも、より、仕事の方が優先される。
他にも、ローカル番組に応募した誕生日ギフトが当選して、紅い薔薇が送られてきた。
死神の妹であるユリさんからも、少女の好きなブランドのワンピースが送られてきた。
「ピノコもちあわちぇものよね」
たくさんのプレゼントに囲まれて、改めて人の縁に感謝する。
そうだ、こんなにも祝ってもらえて、何を望む。
贅沢と言うものだ。みんな、自分をこんなにも祝福してくれているのだから。
「感謝ちなくっちゃね!」
勢いよく、大声で少女は自分を元気付ける。
元気付ける?
…そう、少女は少し元気がなかった。油断すれば、少しだけ涙が零れてしまいそう。
だけど、だけどその油断を振り切って、少女はお礼状を書くことにする。
時々、有名店のスィーツを摘みながら、少女は拙い字で手紙を書いた。
「あ、もう、こんな時間!」
気づくと、窓の外は、随分暗くなっていた。
少女は、慌ててラジオの電源を入れる。
いつも聞いている、お気に入りの番組。どうやら、間に合ったようだった。
『はい!みなさまコンバンハ!ミュージックミッドナイトのDJ犬山ですー!台風が通り過ぎたら、一気に寒くなりましたね--!
本当に独り身には寒さが堪えるという、とても嫌な季節になりました!
ん?なに?俺は寒くない?こら!藤村!お前、最近彼女ができたからって生意気なんだよ!まったく!
なんか、奴は彼女とハロウィンを過ごす予定らしいですよ-!な-にがハロウィンだよ!
お前、ハロウィンがどんな日か知ってるのか!公明正大に彼女にイタズラできる日じゃねーんだぞ!
おおっと、未成年は聞き流せよ!』軽快なトークに、少女の表情から笑いが零れた。
何時の頃からか聞き始めた、ラジオ番組。聞けるときは、かかさず聞いていた。
そして、少女は”ピーチ”というラジオネームで、何度かリクエストを出している。自分のコメントを、
このDJが読んでくれるのが、とてつもなく、楽しかった。
『さて、ここでメールを一つ!ラジオネーム”天才奥さんピーチ”…の前に』
DJは意味ありげに、言葉を切った。なんだろう?少女は俄かに緊張する。
そんな少女の心情を見抜いてか、DJは大袈裟に言ってのけたのだ『ぬわぁんとぉ、今日はこの人からメールが来ていました。
ラジオネーム”天才奥さんピーチの旦那”ッだぁああ!!』
ぱんぱかぱーん!
派手なファンファーレが鳴り響き、少女は大いに驚いた。
でも、まさか、単なるラジオネームではないのだろうか、そう思うのだが、DJは更に続ける。
『ピーチ、聞いているかい?今日は君の誕生日なんだよね!おめでとうぅ!この旦那、
なんと彼女にうつつをぬかす藤村がちゃんと裏をとってきたのだよ!これは正真正銘!君の旦那からのメッセージさ!』
「ま、まちゃかあ…」
思わずラジオに少女は呟いていた。だって、信じられない。信じられるわけがない。
『まあ、ピーチ。メッセージを聞いて』DJは言った。『ピーチ、お誕生日おめでとう。一緒に祝えなくてすまない。
だが今回の仕事は死神が絡んでいるせいもあり、どうしても外せなかった。だが、いつも君に感謝している、ありがとう』
…死神が絡んでいる…。
本物だ。本当の先生からのメッセージだろう。
『ピーチ聞いてたかい?ピーチの旦那は死神と戦うんだねー、職業は天使か?まあ、ピーチは俺の天使だけどね!
おお。旦那がコレを聞いていたら大変だ!とにかくピーチ良かったなぁ!
なんと、旦那はリクエストもしているぞ!なんだ、アツアツのラブラブじゃないか!羨ましいゾッ!』
ラジオから、曲が流れはじめた。
それは、少女が毎日楽しみにしている、ドラマの主題歌。
甘い、甘い、ラブソングだった。
「ちぇんちぇい、あいがと」
少女の大地色の大きな瞳から、涙が零れる。
だけど、それは哀しいものではなく…。
間接的なメッセージ
Happy birthday!