それは、年に数度は襲ってくる危機。
「やめて!ちぇんちぇいにひどいこと、ちないでッ!!」
 数人の男が、BJに一方的な暴行を加える。
 抵抗することも出来ず、彼は無言で耐えていた。
 頬は青黒く、瞼も腫上がり半分しか開いていない。
 自らの血液で肌色は赤黒く染まるが、男共は暴行の手を緩めなかった。
「先生が悪いんだぜ、お嬢ちゃん」
 少女の身体を拘束する男が、愉快そうに耳元で囁いた。
「強情な先生だぜ。あ〜あ、せめてお嬢ちゃんがもっと大きかったならあ」
 その言葉に、少女は唇を噛み締める。
 何度か、言われたことのある言葉だった。
 大人になりたい。大人の身体になりたい。
 そうすれば、先生を助けることができるのに。
 先生を助けられるのに。
 先生を助けることができるのに。


■■■■■



 自分の叫び声で目が覚めた。
 飛び込んできたのは、先生の顔だった。
 夢ほど酷くは無かったが、顔に貼り薬を貼って、瞼にはバンソーコが。
 目が覚めたことに驚く事無く、先生はマグカップ片手にもう片方の手を休めない。
「うなされていたな」口早に、彼は言った。「もう終ったことだ。気にするな」
「…うん…」
 もう片方の手は、汗を拭ってくれていたのだ。
 額から首筋を拭い、最後に目尻を優しく拭う。
「だから、泣くな」
掠れた声。神妙な声だった。そして、手の甲で軽く頬を撫でると、くるりと背を向ける。
「ないて、ない」
やはり掠れた声で、少女は告げる。「ちぇんちぇ、い。ピノコ、なかな、い」
「ああ」
 背を向けたまま、天才外科医は答える。「それと、お前はまだ大人の身体は無理だ」
「え?」
「寝言で、言ってたぞ」
「あ…」
先ほどの夢を思い出す。そして、そんな目にあうたびに思う事も。
「らって」少女は言った。真実ではない事を「夫婦ぺあちけっとで、えいががみたかったのよさ」
「そうか」
こちらを向いて、先生は笑った。
それをみて、ホッとした。

 



少女の悪夢