今どこにいるの? 仕事先で、噂はよく耳にする。 だって、奴も自分もマトモな仕事をしていないから。 それにお互いに目立つ風貌。 それは、黒い眼帯。 白髪に見紛うような、長い銀髪。 行く先々で、噂はよく耳にする。 何故なら、彼も己も普通の仕事をしていないから。 そしてお互いに目に付く容姿。 それは、顔面を斜めに横切る手術痕。 黒髪と白髪の混じる2トーンの髪。 噂は耳にする。 ドコそこで、天才外科医が手術をして回復しただとか。 ナントかで、安楽死医が安楽死を施しただとか。 噂は耳にするけど、出会うことは滅多にないね。 噂はよく耳にするのにね。 出会うのは、噂だけ。 「お掛けになった電話番号は、只今―」 少女がポツリと呟いた言葉。 「アタチは、信じてまってゆだけだから」 それは、それしかできないから。 そうすることしかできないから。 電話を引っつかむと、死神はあらゆる手段に出る。 どんなものでもいい。 ただ、あの天才外科医の足跡を。 ただ、あの天才外科医の安否を。 あの少女の為に。 あの少女の為に。 そう、自分に、言い訳しながら。 ただ、会いたいだけ 眼が覚めた。 一瞬、状況の判断が出きず、身構える。 「病院だ。民間人のな」 急に耳に飛び込んできた、日本語。 この国では聞かれるはずのない、母国語。 顔だけ、ゆっくりと声のほうへと向ける。 「…キリコ…」 声の主を、ゆっくりと呼んだ。「…なんで…」 「お前、多国籍軍の空爆に吹っ飛ばされたんだ」 抑揚のない声。ゆっくりと、近づいてくる。 「運のいい奴だ…脳震盪と全身打撲ぐらいで済みやがって」 「…キリ…」 「捜索願だ」 ぎしり。死神がベッドの淵に越しかける。 近づいてくる、死神の顔。 「…ピノコか…」 「もう少し、仕事を選べ」 間近にうつる、死神の表情は無い。 だが、いつもより、声が優しいと感じるのは、脳障害のせいか。 「会いたかった」 死神の言葉。 不意打ちだった。 まるで心臓を鷲掴みにされたかのような、激しい衝撃。 「会いたかったから、来たんだ」 もう一度、言う。 空耳ではないのか。 「俺は…」震える声で言う。「吹っ飛ばされた時、お前のことは考えなかった」 「そうか」 「ピノコだ。あの子のことだけが浮かんだ…」 「そうか」 「俺は、お前のことを思い出しもしなかった」 「そうか」 「俺は…思い出さなかったんだ…」 答える代わりに、優しい口付けを与える。 別にいい。 別に構わない。 だから、それ以上、自分を責めないで。