水平線から続く空が、濃紺から少しずつ青みかかってきた。
 そして、それは徐々に明るさを増してゆく。
 夜と朝の境目。夜の明ける瞬間。
 この光景は、何度見ても美しいと思う。
 浜辺の砂地にフリースのブランケットを敷き、厚手の毛布に包まれながら、天才外科医は思う。
胡座座りをする彼の膝には、やはり毛布に包まれた少女が、安らかな寝息を立てていた。
今年こそ、一緒に初日の出を見るんだ!と意気込んでいた少女なのだが、
つい30分前に、とうとう力尽きて、夢の中へと旅立った。
「…今年も無理だったな」
 小さく笑いながら、天才外科医は意地悪に呟いた。
 自宅から持参したカップに、銀色水筒の中身を注ぐ。
エクリッセ・エスプレッソ。少女がクリスマスにプレゼントしてくれたコーヒーリキュールだ。
そのカップに、少女専用のピンクの水筒の中身を注いだ。
中身は、温かいホットミルク。
ラテはあまり得意ではないが、少女が、今、この瞬間のために作ったホットミルクを味わいたかった。
口にすると、コーヒーの深い味わいと香り、そしてホットミルクの温かさが、身体を癒す。
まるで、この少女の気遣い見たい。
 とうとう、一筋の光が水平線から差し出した。
 今年初めての、日の出の瞬間。
 その柔らかな光に包まれる少女の寝顔は、安らぎと愛しさに満ちていた。
 その栗色の頭を、天才外科医はゆっくりと撫でてやる。
怒るだろうな。そう思いつつも、起こしてやるつもりはさらさらない。
いつのひか、自力でこの光景を、共に見れる日が来るまで。
それまではこうして、いればいいと、思う。
「…今年も、よろしくな、ピノコ」
 呟くように囁いた。
 幸運に思っている。
 温かい少女の重み。
 それが、今、この瞬間感じていられる奇跡を。


君と過ごせるこの時間の 奇跡