『あさごはん』 朝は和食が好きらしい。 中でも、おみそ汁は、絶対にないとダメなようだ。 だけど。 「…ちぇんちぇい、具も食べなちゃい」 彼は、おみそ汁の汁は好きだけど、具はあまり好きではないらしい。 いつも汁だけ飲んで、具はお椀の底に溜まったまま。 「…わかったよ」 言われて、渋渋食べる姿は、まるで子どものよう。 言われれば食べるが、言われるまで食べない。 中身が豆腐でも、お麩でも、ネギとわかめでも一緒。 でも。 「これ、うまいな」 そういって、彼は汁と具を全部食べてくれた。 とろろ昆布を入れてみたのだ。 どうやら、お気に召したらしい。 今日からとろろ昆布が、我が家の必需品。 『返信』 うーん、うーん。 少女の低く唸る声が、リビングから聞こえてくる。 たまたま通りかかった天才外科医は、何気なく、そこを覗き込んだ。 リビングのガラステーブルに被り付いて、少女が頭を抱えているのがみえた。 「…何しているんだ?」 上から覗き込むと、その声につられて、少女は顔をあげる。「あ、先生」 少女の手元には、封書と、可愛いらしい便箋。 その封書の宛名を見てBJは不思議そうに口を開いた。 「なんだ、出しておいてって言った奴じゃないか」 それは、以前治療した患者からの封書だった。 他病院での検査結果を送ってきたものだった。 検査結果をみて、もう完治とみていいだろう。 そう、一言添えて、少女に郵送しておくように言った封書だった。 「らって、先生」 少女は、眉間に皺を寄せながら「先生の一言は短かすぎ!だから、ピノコもお返事書いてるよのさ」 そう言って、たどたどしい平仮名を、便箋に綴る。 「えっと…『こちらは、もうなつもちかいです。おからだになにかあったられんらくくださいね』…」 「そう、しょっちゅう連絡があっても、困るんだがな」 「もう!」少女はペンを振り上げて「しゃこーじーれーれしょ!みないれ!!」 「はいはい」 小さく笑いながら、BJは少女の小さな頭を軽く撫でる。 『ラブレター』 字が上手になったな。 そう、BJは思った。少女ははじめ、平仮名の50音表をみながら手紙を書いていたのだ。 それが今では、自分が考えた言葉を単語として、瞬時に字へと転換することが出来る。 ちゃんと成長しているんだな。 少女の内面的な発達に、彼は少し安堵する。 ふと、思い出して、彼は鍵つきの引き出しを開けた。 引出しの一番底。その封書はあった。 少女が、初めて書いた手紙。 自分宛ての、手紙だった。 文章は間違いだらけ。字も辛うじて読める程度のもの。 でも、誰かに伝えたくて、少女なりに一生懸命に綴ったその手紙。 拙いながらも、想いに満ち溢れたその手紙は、彼の宝物とも言えた。 ただ、それを、彼本人に問えば、全力で否定するであろうが。 手紙は好きだ。 自分も、幼い頃、大好きなオトモダチに手紙を綴った記憶がある。 それが何処の誰かは、最早 思い出すことも、できないが。