「ちぇんちぇい、ピノコのかやだおっきくちて!」 「…だから、何度も言っているだろ。まだ無理だ」 「それじゃーダメだなの!!クリスマスにちぇんちぇいにピノコの一番大事なもの、 あげられないじゃない!!」 …少女の発言に、天才外科医は飲んでいたコーヒーを、力一杯噴出した。 presents my important one. 「ななな、何を言い出すんだ、ピノコ!」 自分の噴出したコーヒーで、白いYシャツは悲惨なコーヒー斑色に染まってしまったが、 そんなことよりも、少女が先ほど発言した言葉の方が彼には最重要事項になった。 「だって!」天才外科医の剣幕に負けず、少女は「ことちこそ、ちぇんちぇい にピノコの一番大切なものあげたいの!!ピノコ、18歳なんよ!」 「そんなもの、いらん!」 勢いで言ってしまってから、さすがにしまったと、思った。 天才外科医の言葉に、少女の瞳は涙で溢れ、唇が微かに震えている。 「あ、ピノ…そうじゃなくて…」 「もういい!!」少女の声は泣き声だった。「ちぇんちぇいの馬鹿!!もういいもん! ロクターにあげゆ!!」 ばたん!勢いよく少女は飛び出し、ドアが勢いよく閉められた。 いま、なんて言った? 「ちょっとまて!!!ピノコ!!」 慌てて天才外科医は、その小さな背中を追いかけた。 少女が玄関のドアを開けそうなところを、寸でで捕まえることに成功する。 「はなちてよ!!」 睨みつける少女の瞳に、本気で怒っていることが分かった。 確かに原因は、自分の失言だ。だが、しかし 「もう、ちぇんちぃなんて、ちらない!」 「まて!落ち着け、あんな変態死神は、確かに来る者拒まずだが、絶対に後悔するぞ!」 「だって、ちぇんちぇいは、いらないんでちょ…!」 声が震えていた。 その声に、彼は胸がつまる。 自分の発言で、少女を深く傷つけてしまった。 「…ピノコ…」 そっ…と、天才外科医は、その少女の小さな身体を、自分の腕の中に閉じ込めた。 穏やかな、小さな生命の温もり。 「…別に、何もいらない…」呟くように、彼は少女に囁いた。「今、お前がココに いるだけでいい。それだけで充分だ」 「…ちぇんちぇい…?」 「だから、無茶を言うな。少しずつ成長すればいいから…」 「でも…今年こそ、ウェディングケーキ…作りたかったのよさ…」 「………………はい?」 腕を緩めて、思わず少女を見る。 少女は顔を真っ赤にしながら、もじもじと真意を告げた。 「…あの、ピノコは、ピノコの愛情たっぷりの5段重ねのケーキを作りたかったのよさ…。 で、ピノコの愛情たっぷりのチューをあげよーと……」 「…大人の身体は…」 「だって」と、少女は「小さいかやだだったら、大きなケーキが作れないち…ちょの、 ちぇんちぇい…なんだと思ってたの?」 真っ赤な顔で、上目遣いに見上げる大地の色。 …これは、分かっている。 しっかり、確実にわかっている。 「〜〜〜出てくる」 愛用のコートを引っつかみ、天才外科医は寒風の冬空へと繰り出した。 頬を赤く、Yシャツをコーヒー色に染めたまま。