「ねぇママ…悪いことしたらえんまさまがやってくるってほんと?」
「嘘つきの子供は怒った閻魔様に舌を抜かれてしまうの…」
「どうしたんだい黒男クン」
「えんまさま…こわい」
「いい子にしてたら大丈夫よ」
「ほんとう?」
「アハハハ!黒男クン、他にも鬼ババアがいると聞いたぞ?」
「おにばばあもいるの?」
「ビデオから出てきて…悪いコはいねぇがぁ〜って言うんだそうだ…」
「ヒッ…!」
「長い髪を振り乱して…どこまでも追い掛けてきて…舌を切るんだ…それが鬼ババアさ」
「う、そ…!!?」
「本当さ!
「怖いのかい?ハハハ!!」
「エド、違います…色々混じりすぎてますから。黒男、違うからね?」
「でもおじさんは、うそつかないよ。」
「嘘じゃないけど、何か物凄く勘違いしてるんだよ…」
「いい子にしてたら大丈夫よ。嘘をついたら駄目だってお話なの。
物語りの中のお話だから、怯えないで」
「いや、鬼ばばあはいるね!」
「エド!」
「やっぱりいるんだよ…ウウッ…」
「泣かないで黒男、いい子にしてたら大丈夫だよ、強い子だよね?」
「ヒッ…つよい…い、いい子に…なる…ウウッ…でもね…いるんだよ、パパ…こわいよ…」
「クルゾ〜もうすぐやってくる!!逃げられないんだ…」
「ぅあああああ!!!」
「エド…怖がらせ過ぎです」
「悪い、ふざけ過ぎたな。任せとけ黒男クン!!」
「ウッ…えっ……おじさん、たすけてくれる?」
「ああ、鬼ババアに会ったら必ず助けてやるさ!」
「本当に?」
「ああ、絶対だよ、だから泣くな、約束だ」
「う…ん。ぜったいたすけて…約束す…る。もう泣かない!」
「よしよし、黒男クンは偉いな。…ん?あれは…」


バタバタバタ…


キリコを追って妻が掛けてきた

「コラ!キリコ待ちなさい」

「メアリ、どうしたんだ」
「キリコ、隠れても無駄よ。あなた、こっちによこしなさい」 
「パパ、たすけて」
「キリコ!!あなたが悪い事したから怒ってるのよ」
「そこまで怒らなくてもいいだろう?」
「あなたは黙ってらっしゃい」
「…」
「きぃちゃん、何かしたのかな?おじさんは怒らないから、話してごらん」
「…ウソついた」
「嘘?」
「全く…私はね、花瓶を壊した事を怒ってるんじゃないのよ。
それを隠そうとしたからよ。怪我をしたらどうするの!?
それに、ウソツキになっちゃだめよ。ウソップみたいに、誰も信じてくれなくなるのよ。
そういう人間になってはだめよ」

「きぃちゃんだって、悪いことをしたって思ってるんだよね。正直に勇気を出してごらん。
ごめんなさいって言うんだよ。」
「ママ…ごめんなさい」
「分かればいいのよ」
「メアリー流石だわ。そうやって子育てをするといいのね。」
「エドがしっかりしていないからダメなのよ。この人ったらキリコにやたらと甘いのよ。
…1番の分からず屋はあなたよ!!」
「影三、後ろにかくまってくれ」
「全く。ミオのところはいいわよ。影三は見た目優男のくせに、真がしっかりしてるわ…うちの旦那と逆よ!!」
「散々な言われようですね…エド」
「そうだろう?夫を立てる気なんてこれっぽっちもないのさ…この気持ちを分かってくれるか影三」
「え?ええ…」
「紛れも無い事実を述べたまででしょう?!影三クン同情しないでいいのよ!」
「え?あ…はい!!」
「ふふっ。頼れる奥様なんて、関心するわぁ〜憧れちゃう。私もまねしてみようかしら、ねぇあなた?」
「…えっ!?みおにはみおの良さがありますから、人間ソレゾレ、人生色々ですから…」
「影三…冷や汗出てるぞ?」 
「くっ、く、黒男もお母さんは今のままでいてほしいよね?」
「……ヒッ。」
「お母さんは…ど、どうしたの黒男」
「…ウウッ…キティー…は舌を…抜かれちゃうの…?」
「何でだい、黒男クン」
「おばさんの髪が…ヒッ…こわい…!」
「どうしたんだお前、その髪型」
「髪?あぁ、ガッシャーンって割れた音がしたから、シャワーを打ち切って駆け付けたの。
セットする暇がなくて」
「おにばばあ…みた…い…うッ…うぁああん!!」

「オニババァ?何それ??」
「え…えっと、教育ママって意味よねぇ、あなた」
「え!?ええ、そうですよ、日本ではそう言います」
「そっかあ。オニババアってママみたいな人を言うんだね」
「教育ママ?…そんな風でもないと思うけど…ねぇ、エディ?」
「あっ…ああ、そうだ!」

「……なんか今みんなごまかさなかった?」

「「「何も!!!」」」
「みんな揃って大声で…怪しいわ…」


その疑問は正しい。


確かに君は
教育ママではない 

鬼ババアだ

あんまり面白くて、
堪えられなくて。
思わず俺は
大笑いして
涙目にながら
言葉が腹から出てきた。

「キリコ、その通りだ…確かにママはオニババアだよ…アハハハハ!!」

「ほう…何故笑うのかしらね…」

「鬼ババアだってさ…聞いたか?
こりゃあ傑作だろ!?
ハハハハハハハ!!」

「バカッ!!…エド!それは…」

「そんなに私が面白いの…エディ、ウソツキは駄目よ。正直に話しなさい…」

「正直だよなぁ、みお?」
「…あなた、何か言って」
「影三?」
「……ここ、は…逃げるが勝ちですね…」

凍り付いた表情の影三とみおを目の端に認めた時。

気付けばすでに
後の祭りだった

鬼ババアの放つ殺気は
風景を一変させる

のどかな友人家の
ささやかなガーデンを

魔物が住まう灼熱地獄
伝説の孤島
『鬼ヶ島』に変えた


「何の事だかさっぱり…ミ、みお、助けてくれ」

「オニババアの意味は…みおどうして慌ててるの?」
「そう、慌ててるわ!!私すごく困ってるの!あ、あ、あなた、私、夕飯買ってないわ!!」

白々しいぞみお…
学芸会の方が数億倍マシだぞ…
みおにこんなに下手くそな嘘がつけたとは
知らなかった…

「えっ……そうだ、思い出した!!米!!お米でした。日本人は米が命なんです!無いんですよ命の糧が!!
ウッカリしていました…あんな大事なものを!!凄く重いんですよね。俺が手伝わないと。
規則正しい生活、食事は基本中の基本ですよ!!…きいちゃん、黒男もアイス買ってあげるから。
ささ、一緒においで」

影三…さっき珍しく焚いてただろうが…
私が何度君の食事の世話をした…
大体昼食はおろか、夕飯も抜いてただろう…
食事にこだわる君を初めて聞いたよ影三…

「あれ、なんかありそうだけど…まぁ、いっか!
ワ〜イ、ブラックも泣くのやめて、アイスクリームだよ」

まぁ、良くない!!
キリコおまえまで…
かき氷食べたばかりだろ…
お父さんのピンチよりアイスか…!?
食いしん坊はそれぐらいにしろ…
お腹壊しても知らないぞ…

「う、うん。アイス食べたいけど…パパ、おじさんが心配だよ?」
「おじさんは黒男のことを助けたいってさっき言ってたよね、大丈夫だよ」
「うん!!おじさんがおにばばあから守ってくれるんだ!
カッコイイね!!やくそくだもんね!がんばって、おじさん!」
「約束…」

言った、確かに言った、
言いましたよ!

「あなた」

振り向いてはいけない。
そこには、鬼ババアがいる。

「ヤ、ヤッパリ駄目だ!!私一人では無理だ!!助けてくれ、おい、待て影三!!」
「…これはお二人の問題ですから、邪魔者は退散するのみです」
「なにっ?二人だと!!?」
「そうよ、私達が口だしするようなことじゃないわ。夫婦の問題だわ…」
「夫婦…って君達もそう思っただろう!?」
「自業自得です、エド」
「影三、まさか君?!」
「せっかくフォローしたのに…残念だわ」
「なっ…みおまで!?
…君達…

さては私を裏切ったな…?」

「ハァアアアッ!!?
何言っちゃってるの!?
裏切り者は…

あんたでしょうが!!」


「………またな。
俺もなんか買い忘れたはずだ、
間違いない。」


「逃がさないわよ…」

「達者で暮らせ、さらばだ…」

日本ではこういうのを鬼ごっこと言うのだろうか  
私は本気で舌を抜かれると思った 

「逃げるが勝ちだな…」

「お待ち!!」

「待てるか!!」

「待てっつってるだろうがッ!!…主婦を嘗めるなよ…」

「ばっ、ば、馬鹿な…!!」

「捕まえたわ…エ〜ディ〜♪」


有り得ない
全力で走ったのに、何だこの素早さは!!

「ジャンケンしましょうよ…あなたはグーよね」


…ゴツン!!!

「グアッ…手加減なしかッ…!」

「あなたが悪いんだから、あいこはなしよ!!
ジャンケンって便利よね。流石に日本人は賢いわ…」

君、絶対ルール間違えてるから…!!!

「で、鬼ババアの意味は何?またじゃんけんが足りないの?!」

黒男クン、鬼ババアは断然強かったよ…

「エ〜ディ〜♪」

「やっぱり、鬼ババ…」

ゴツン!!!



「ねぇ、パパ。おじさんは嘘をついたからら
鬼ババアにいじめられてるの?」

「…!」

黒男、嘘をついたのは私達だよ。 

「……う、嘘も方便という言葉を知っているかい?」
「うそもほうべん?なあにそれ?
うそつきはドロボウになるならしってるよ?」

「鬼ババアに襲われない教訓だから、よく覚えておきなさい。」
「うん」


ドカン!!

…ウアッ…

ドゴッ!!

…も、許してく…イ!!

バキッ!!


私は余りの音に振り返る

「……ねぇ、パパ」
「ん?まだ何かあるのかな」
「おじさんを助けに行かないの?」
「……!!」
「鬼ババアをおじさんみたいに
やっつけたりしないの?」
「それは絶対無理だよ、黒男」
「パパ、どうして?」

やっつけられるのは俺だ。

それに…


「お父さんは鬼ババアに食べられそうになるからだよ」


黒男、これは嘘じゃないよ…



 




 
鬼女はお好きですか?




※…口は禍の元…という諺を、エドワードに捧げます(爆笑)
これはtui様が下さったSSの一つで、私がど〜〜〜しても掲載したい!と申し出たところ、なんと!
快諾してくださったのです!あああ、ありがとうございます!!
他にも、あれとか、これとか、未発表の傑作があるんですが、それはまた追い追い…。