Dear メアリ



いつもありがとう。
影三が例の病気を再発させてしまった。
…君も知っての通りいつ急変するか分からない。
予断を許さない状況だから張り付いているんだが…そろそろ体力も限界だ。
私にとって安心して影三を託せる人…頼れるのは君しかいない。
身体が大丈夫なら私一人でもなんとかやれそうなんだが…やはりそちらに連れて
帰るよ。
いつも甘えてすまない。
君が影三もキリコもユリも…私の全てを受け入れてくれる。
君はいつか影三を家族だと言ってくれたね。
その一言で私達が立ち直ることすらあったんだよ。

ここは孤独だ。

頼れる仲間もいくらかはいるよ。
けれど一部の事情を半端に知る人間はたいてい、影三を蔑む目で見る。
彼はその差別からも堪えているよ。
『あいつは医者じゃない、慰み者だからここに必要なんだ』
『Dr.ハザマは、躯で上司にとりいったんだ』とか。
影三は君も知るように優秀な研究をする。
実際彼の功績でこのプロジェクトは進行しているようなものだから、
彼の才能への「嫉妬」だと私は思う。
…もちろんこんな奴には片っ端からジャンケンをしておいた。
影三は
『それは傷つきますよでも…気にしてません』
と言うんだ。

どうしてそう強くいられるのか聞いたんだ。

そしたらこう言った

『言いたい人間には言いたいように、
好きなだけ言わせておけばいい。
何もかも上手くいかなくたっていい。
ただ、自分の好きなものに懸命であればいい。

それだけを私は見ている

だから
自分の好きなことすら一生懸命になれない人間に
私は興味は全くない

…捨てるのみ!!』

といった内容で君に脅されたそうだ。

君が誰よりも優しいことを私達はよく知ってる。

だから、君にすら捨てられてしまうってのが効いたんだな。

勿論私にも効いた。

君は私の特効薬だよ。
目が覚める思いがした。
殴られてもいないのにね(笑)

my suite honey

君って本当に最高だ
いつも私の心の中にいる。
愛してるよ、
ジョルジュ夫人。

子供達をよろしく


…一刻も早く君に会いたい



From エドワード




「頼れるのは〜君しかいない〜♪」
「母さん何だか楽しそうだ…そんなにスキップしたら危ないよ」
「あの人が柄にもなく花を贈ってくれたのよ、いつもありがとうってカードまで
添えて。
君は私の〜特効薬〜♪」
「今朝届いてた花束…ろくに家に帰らないくせに。あの男…
プレゼントで機嫌をとる算段か。
母さんみたいにこんな物で騙されないぞ俺は。ヘドが出るぜ」
「そう、花束。こんなに気の利く人だったかしら。誰かに…
きっと影三にアドバイスされたのよ!本当に〜最高〜いつもあなたの心の中に〜♪
…あ」

ゴツン…!!


調子に乗って、元気よくスキップしていた母は、いつもより高く腕を振り上げて
、
それは見事に俺の顎を下からアッパーで振り抜いた

「母さん、痛い…」
「……お前の顎がそこにあるのが悪いのよ」
「謝れよ、母さん!!」

俺は咥内を切って口の端の血を拭いながら、当然のことを言った。
そう、それは千嗟一遇のチャンスだった。
俺の母は、俺に対して謝ったことが実はない。
どんな状況でもいつも俺は叱られてばかりだった。俺の人生でたった一度でいい
から

『ごめんなさい』

を母の口から聞いてみたいと考えていた。
明らかに母が悪い。どんな風に謝るのか、母を見遣るが

…憮然としている

「おい、母さん謝れよ!」
「…それはあんたでしょうが!」
「……はい!?」
「お父さんの悪口言うなって何度言えばわかるの!!」
「問題を差し替えるなよ!謝れ!!」
「キリコ、いい加減にしなさい、ごまかさないの!!!グー、チョキ、パーどれがい
い?」

鉄拳、目潰し、ビンタ

「何故こうなるんだ…」
「あんたがシツコイからよ、ほらジャンケンよ」
「母さんとジャンケンなんて絶対しないからな」
「私が選ぶわよ」
「…グー」

「ジャンケンポン」

…ゴツン!!

「イッ…グゥ!」

「全く、妙なところばかり、父親に似るんだから」
「別に似たくて…」
「何か言った?」
「何も言ってない」
「…往復でもいいのよ」
「決して何も言ってません、お母様」
「ならいいわよ。フンフンフン♪」
再び元気に両腕を力強くブンブンさせてスキップ。母が機嫌を直して良かったが
…

「My suite honey♪honey♪honey♪Please my name 
ジョルジュ夫人♪最高最強♪
…あ!」

バタン!

「キリコ、こんなところで寝ないの。人様の迷惑よ!」




「おまえ、俺の前に誰か好きな人とかいたのか」

ただ、何となく聞いてみたかった。聞けずにいたことを。
ある昼下がりの爽やかな風の吹き抜ける午後、
ブラック・ジャックの家のベランダから見える海は波一つない穏やかな渚。
キラキラと太陽を反射して上空をカモメが心地良さそうに飛んでいる。
遠くには船のシルエットが見える。


こんなにノンビリとしたシュチエーションは
その答えが重いものでも、波がさらってくれる。

嫉妬や辛い真実も風に軽く吹かれてくれるはずだ。

そう言い聞かせて勇気を出して聞いてみた。
今の俺なら受け止めることが出来るはずだと。

案外俺もデリカシーなんだなと思う。 

「ああ。いたよ、…このみさんという名前の女性だ。片思いで終わった」
「あれだ、お前からなんて珍しいな」
「そうだな…彼女は婚約中で決まった相手がいたんだ。
分かっていたんだが、抑えきれなかった」
「そう、情熱家なんだね」
「何とでも言え!」
「どんな人だったんだ」
「何だよ、気になるのか?」
「前置きはいいから」
「ふん。…そんなに気になるのか?仕方ない奴だな」
「そんなにもったいぶっても、たいした人じゃなかったりして」
「貴様…結局思いを告げることも叶わずにただ、見守るだけの密な恋だった。
今でもどこかに燻るものはあるかもしれない。幸せでいてほしいと思う。
恋愛とかそういうものとは形を変えて、今でも彼女を深く愛してるよ。」
」
「だから、どんな人」

「いい加減シツコイな…しょうがない…。
『手術の鬼』だとか…そうだ、『ブラッククイーン』と呼ばれていたんだ」
「ブラッククイーン?なんかブラックジャックに似てるな」
「そうだよ。それで何となく気になったんだ。実際会ってみると、腕のいい女医
だった。
強気で勝ち気な、自立した人だ。
的確な判断力と、仕事の素早さ。真が強くて…ちょっと強過ぎるぐらいだから、
なんか無理してるんじゃないかなとか、色々疑問に思って…
探っていくうちに、気付けば恋をしてた。」
「恋は落ちるもんだもんな」
「まあ、その辺はあんたの方が専門だろうが…
俺より勝ち気な人間を初めて見た気がしたんだ。」
「そりゃあ相当だな」
「だがな…最近おじさんに会ってから、子供の頃をたまに思い出すようになった
んだ。
そしてよくよく思い返したら、いたんだよ、俺の周りに。」
「幼稚園の先生とか?
だとものすごい不良保育士だな」
「残念だが違う。お前も知ってる人だから、当てててみろ…俺の初恋の人だぞ気
になるだろう?」


…悔しいが、気になる。

「見た目は?」
「髪は…金髪に染めてたな。高く結って…だから長かったんだな…
背は高くて…目鼻立ちのハッキリした美人で…日本人離れしてたな…」
「…外国風の美女ね」

このみという女医はそんな外見で…ブラック・ジャックすら敵わないほど勝ち気
で…
素早い判断…つまり行動力があって…押しが強く…男勝りで……

「俺を見て何か気がつかないか?大ヒントだぞ」
「…あ」 
気付いてはいけない
知ってはいけない

ブラック・ジャックの初恋。

ブラック・ジャックの過去の恋
俺はやはり聞けずにいたことは
聞かなければよかったと思ったが、後悔しても無駄だった


「分かったか…このリボンタイ…どこかで俺は憧れ続けていたんだろうな、あの
人に。
実際今の俺のこの性格にも影響してるって自覚してる。」 
「お前、どこをどうみたら、どうしてよりにもよってそんな女性を!!
どこが良かったんだ!!」


「…泣き虫だったろ、俺、子供のころさ」
「ああ」
「だから、いつかあんな風に強い大人になりたいって
…今でも憧れが消えてないんだ。
おじさんと同じかそれ以上に大好きな、永遠に俺の憧れの人さ。
俺の心の奥深くで…あの人への…
おばさんへの初恋は続いてたんだな。」


ブラック・ジャックちょっと伏せ目がちにほのかな笑みを浮かべて懐かしいみた
いな顔をする。

「おばさん…似合ってたな」

指にリボンタイに絡めては器用に整えてみせる。
 
「ッ…俺は認めないぞ!!
どう間違えたら憧れになるんだ…俺の母親のどこが…
悪趣味にも程があるぞ!
有り得ない!!」

バタバタバタ…お嬢ちゃんが絵本を片手に走ってくる

「先生〜この漢字読めやい」 
「ああ、これはな…」
「オニババア…」

鬼婆…俺が死に神の化身なら、
母親は鬼婆だった。
鬼神とも言う。

「キリコ…まっっ青だぞ」 

死に神にも
恐れ戦く神がいる。
それは…

「オニババア…」
「おにばばあが、男を食べてちまいまちた」

「ぐぁあああああ!!!」

「キィコたん、この台詞?何だかリアルよのさ…」


「…おしまい」

「え、先生続きあるよのさ?」
「それもそうか、ピノコ、それを貸してみろ、私が続きを読んであげよう」
「わ〜い!」


「
男は好きな人の昔の恋が知りたくなりました。
やめておけばいいものを、ひっつこく聞きました。

そして…

開かずの扉を
自ら開けてしまった


キィ…

「バタン。」

二度と閉まることのない禁断の扉を、
自らの手で
開けてしまった

そしてオニババアに好きな人を食べられてしまったのだ。

…様変わりしてしまった関係。 

取り留めることは叶わぬ月日は 
いつの間にか川のように流れ去り、 
思いを馳せても 
取り返せることなどない。 

男は慌てたが、好きな人は、最初からオニババアのものだったのだ。

それに気がついたに過ぎなかった


またまた、おしまい」


「グアアアアアア!!!」 

「キイコたん…そこはもういいかや。」
「キリコ…おしまいだぞ…」

「先生適当にお話を作らないれ、ちゃんと続きを読んでくらちゃい」 

「男は…オニババアに恋人を取られて…おしまいだ」

「妙なとこよをちゅなげないでくらちゃい」

「グアアアアアア!!」

「そこはもういいかや!!キリコたん、先生は駄目やから、代わりに読んでくらち
ゃい。」

「…キリコはおしまいだ」
「アアアアッ!!」
「…自分で読むかやもういい…」
先生はこうちて、いつまでもキイコたんと
ちょっと……結構、遊び……いじめまちた。 

おしまい♪




「先生…かわいちょう」
「どこがだ」
「キイコたん、さっきからなんかおかちいよ。
頭を抱えて苦ちいみたいにみえゆ…先生がからかうかや…」 
「悶絶だな」
「もう。先生ったや!」
「それもそうだが…ピノコ、面白ければそれでいいだろう!」
「ア…アッチョンブリケ!!」

…た、たちかに、面白いよのさ…


「お、鬼ババアからは逃げられないんだ…来る…クルゾ…ウグッ…!」

確かにちょっとやり過ぎたかもな…


「…ブラック・ジャック…気分が悪いから
しばらく患者用のベットを貸してくれないか?」
「仕方ないな」
「助かったぜ…」
片足を棺桶に突っ込んだような状態で、
キリコはフラフラと歩いてゆく
力が抜けきったみたいに、
いつも以上に真っ白だ


キリコ。

本当は初恋の相手はお前さんだ…
髪型で女の子と勘違いしたんだよな、俺。

結構本気だったんだぞ?

なんて今更言えないよな




 




 
続、鬼女はお好きですか?




※えっと…キリコが可哀想なのは、毎度のことですね、はい(こら)
しかし、このやんちゃ反抗期キリコが素敵ですね!普通の男の子ですね!
このキリコが大好きです!