(1)

 自分を押さえつける手。圧し掛かる体。見下ろされる碧眼。
 その総てに混乱する自分がいた。
 混乱?いや、違う。拒否?それも、違う。
 ただ、その明確な意味をなす手の動きに、その感覚が。
 ああ、拒絶だ。と誰かが頭の奥で叫ぶ。

「や、め…」

拒絶の為の言葉が、咽喉の奥で焼き付いて声にならない。
乱される衣服。弄る手は、今まで何度も経験してきた性的な動き。
知っている。俺はそれを良く知っている。
だけど、だけど、だけど。

体が、動かない。まるで抵抗などできないかのように。
抵抗?違う。嫌なんだ。怖い。どうして。どうして。
追いつかない。思考。その端に囁かれた呟きが、総てを粉々に打ち壊す。

「…影三…」

総毛立つ感覚。その名は。俺の父の名前。
「違う!」
搾り出すように、声をあげる。「違う!違う!違う!」
まるで子どものように、同じ単語を繰り返す。
だって、それしか思いつかない。

俺は、俺は、父じゃない。

 ベルトが外される。
敏感な箇所に爪をたてられ、指で擦り挙げられる。
その動きに呼吸がまともにできない。
赤く色づく肌はうっすらと汗ばみ、舌で弄ばれる感覚に泣き声をあげた。
彼は、彼は自分の中になにをみているのか。それを思うとゾッとする。
それでも、その髪の色が、瞳の色が、錯覚しそうになる。
この人を、あの死神と。
どうして、どうしてこんな行為をされるのかが分からない。
性器に直に触れられ、耳を塞ぎたくなるような卑猥な水音をたてて扱かれる。
導かれる高みに、吐き気がする。

それなのに、まるで刻み込まれる、父の名前。
どうして、どうしてその名前を呼ぶの。
俺は違う。違うのに。

追いつかない、思考。
父の名前が、俺を粉々に打ち壊す。

助けて、俺を見て、俺を、俺であることを。

「…キリコ…!」

死神の名前を呼ぶ。どうして、死神の名前を?俺を救うとでもいうのか。
死神が。
だけど、でも、俺にはその名前しか思いつかない。
白銀の髪、青い隻眼の死神しか。

それが、総てのはじまり。過去からの因縁。それが、現実の残酷さ。


「やめて…おじさん…!…エドワードおじさん…!」

力づくで組み敷かれて、何度も、何度も犯される。
叫び声はきっと、聞こえていない。
ただ、この人は、俺を抱く。

「影三…!」

父の名を呼びながら。








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