(18話) 終わった。 この一服が噛み締めよう 恐らくこのオペが 医者としての俺の 最後の仕事だろう 「先生何だか顔色悪いよのさ」 俺はあれから、さらに調査を進めた。 医者としての視点から何か見える気がしたからだ。 俺が気になったのは被害者の被害情況の共通性とパターンだ。 まだ試作の段階でそう数はないが動きが速い。 つまり的確に狙いを定めている情況のはずだ。 狙われやすい人間を調べた 「…昨日のレバー」 「レバニラ炒め?」 政治家、財界の大物、医療関係、ジャーナリスト、著名人… それらの被害情況…つまり死に方だが肩書によって違うのだ。もちろん投薬され続けている人間も被害者だが… クリアー、見えない薬たる由縁から、イマイチ掴めない。 「…レバーが今まで黙ってたが…実は …嫌いなんだ」 「え〜れも残って無かったよ?」 政治家や財界人は自殺が主で投薬が伺える。 医療関係者は拉致など投薬が伺えない。また死亡するパターンはまれだが自殺が主だ そして気になるのはジャーナリストと著名人だ。 死に方だが ジャーナリストも自殺だ。 「実は…コッソリ…お前さんの皿に盛って食べてない」 「アッチョンブリケ!!」 クリアーの投薬により自殺したジャーナリストは医療関係を主に扱うする者が狙われているが… 広く自殺以外も狙われやすい被害者をみると。 一目瞭然だ。 医療関係のジャーナリストは相次いで大量に殺されている。 「…仮眠するから…4時間したら起こしてくれ」 「うん。」 つまり、「自殺」は的確に予定されていた死だが、「他殺」は想定外ということ。 クリアーの組織に近付く「邪魔なハイエナ」の可能性のがある人間にあらかじめ標的を定めているが、 クリアーに気が付いた想定外の人間はその都度、殺しているということだ。 これだけ念蜜な計画を実行する力があるのだから、簡単に除去できるはずだ。 この他殺の被害者の死に方は、プロによる殺しだ。 組織だったものが伺える そして、著名人だが… 「…カレー」 「カレー?」 この著名人というところに『ハメルーンの笛吹男』の精神的異常性が伺えると俺は考える。 何か…何か目的があってうごめいている組織だが…この自殺が他殺ともとれるような殺しで妙なのだ。 目的意識が何かある組織に、まるでわざわざ空きを作るような死に方… そこで俺は被害者の情況を詳しく知りたくなり、検死に立ち会った。 …酷い死に方だっ…た 「カレーが俺は…」 …酷さに…言葉を詰まらせてしまう。 …色々なパターンがあり、楽しみとして殺しをしているのが見受けられた。 共通性は性的な虐待だ。 『快楽殺人』とも呼ぶ。 手足に拘束痕や鞭などによる擦痕跡があった。 被害者の口に…被害者自らの性器を含ませための 汚物に塗れさせたものなどがった。 『天才ピアニスト、謎の失踪』 『実力派人気男優、変死体発見 『エンジェルボイスの神童、拉致監禁の末暴行死』 著名人で狙われやすいのは特に天才肌の芸術家タイプ。 東洋人の20代〜30代の男性、目鼻立ちがハッキリした顔立ち…そこで、酷い死に方ながら自殺と結論づけた以外にも酷い …つまりこれらの傾向に当て嵌まる「変死」で調べると著名人以外ね一般人に至っては多数の被害者が見受けられる。 被害者の数は クリアーに比例する 「ピノコ、夏野菜もいいが…お前の手作りカレーは…」 「ピノコのカレー?」 …直接手を下すことの他に追い込むことがある。 被害者を肉体的または精神的に追い込み…死を選ばせて…つまり自殺をさせていた。 明らかに自害だ…しかし俺は普通に自殺として処理されているものも、 「ハメルーンの笛吹男」の好みに合う人間について詳しく調べた。 「俺はピノコのカレーが…」 性的な思考は共通する。 韓国、日本、ベトナム… 一見個々が世界の端々で無関係に自殺しているように見えるが。 俺の行動範囲以内だ。 左太腿の付け根当たりにに必ず火傷の跡がどの被害者にも共通した …脚の長さにコンプレックスがあるのだろう 快楽殺人するほどの人間だ。案の定、性癖は必ず出る。そして共通する。 責められているヶ所から、身体にコンプレックスがあること、世界中に被害者が点在することからも …自分好みの人間を選ぶことにこだわりがある。 傍にこだわりの「お気に入り」をおいて…飼っているだろう。 お気に入りは、生き残る事が出来るはずだ 被害者の中には10年は経過しているだろう古傷…明らかに監禁されていたものもある。 恐らく。暴行に堪えた年数と思う。 暴行に耐え兼ねた被害者が「死」に救いを見出だした模様だ。 「俺は…ピノコのカレーが…す…す、好きだ…ぞ」 「ア…アッチョンブリケ!! 以上の事から俺はある結論を導いた。 性的な思考が完全に他人に見える。 完璧な計画に余興を取り入れ…わざわざ穴をあけておく人物 相当な自信家だ。 医療への何らかの固執 高齢者だろう。 医療ジャーナリストの死亡が確認されるのは東アジア 自信家ならば香港、上海、シンガポールなど大都市圏内の一等地に組織を構えるはずだ。 そしてこれほど闇医者が調べても何の噂もない地区がある。完璧な仕事だ。 ここに違いない。 そして、自分好みの天才肌の男を手元においているはずだ 『20年ほどいつも同じ 東洋人を傍らにおいているボスがいる』 こいつか。 こいつが『ハメルーンの笛吹男』なのか? 好みは天才タイプ…医療へのこだわり…その東洋人の男が何らかの形でクリアーに関わっているに違いない 恐らくキリコはここに向かっているはずだ。 「…先生珍ちいよのさ〜れもね〜ちってまちたよ〜だ!」 「なっ…なにっいい!!?」 「先生、分かりやちゅい…」 「…そうか?」 「うん。かなりよのさ〜!じゃあ今晩は、元祖ピノコの手作りボンカレーよのさ!!」 「…ありがとうピノコ」 監視が…毎日徐々に近付いてきていた。 …周囲を囲まれているな。 昨日はついに家の中にまで盗聴器を仕掛けられた。 そこで、俺が狙われている理由を考えたが… …今現在の問題はピノコだ。 下手に動くとこの子を巻き込む。 この会話はつつぬけだ。 「…先生…今日は素直なんらね。熱があゆかも。待ってて、体温計とってく…」 俺を心配して体温計を探しにいくピノコを、 気が付けば俺は後ろから おもいっきり 抱きしめていた。 あったかい、とっても。 「…先生熱ちゅい」 『ハメルーンの笛吹男』 やり口はよく知っている。 お前は何か目的があって悪魔の薬を使っているが…それに気付いた人間を廃除していることもある。 「いいから。もう少しだ、あと少し…お前さんを感じさせてくれ」 ♪〜♪〜♪〜 陽気な音色。 人間の尊厳を踏みにじる酷い被害者の死に様。 そして…余興のように人を嬲り殺すこともあることぐらい 俺は分かっている。 「…ッ」 「ろうちたの先生…泣いてゆの?」 『天才外科医ブラックジャック』をお前が狙う目的それは「邪魔なハイエナ」か「性癖」かだと分かっている。 俺は余りに知りすぎた。だが分析の結果 …俺は後者だろうことも、分かっている 運が良ければ性的な暴行を受け続け監禁生活だということも 大半は死ぬほど…死ぬ快楽を味わいながら性的暴行の末に殺されるということも どうやって殺されるのかも 死ぬまで酷い程に嬲られ続けることを。 音色が聞こえ続けていたことも 大きくなってきていたことも。 分かっていた。 「かなちいの?」 「…違う」 あったかい。とても。 この腕の中の温もりを覚えておけば 肢体を切り裂かれても 人として死ねなくても 俺は人間として原型を留めていたと 人を慈しむ事が出来たのだと 俺は…大丈夫だ。 大丈夫… その時俺はどうしてか 息が詰まるほどに 抱き寄せた 「ピノコ…」 「…?」 ピノコの前に雫が落ちる 泣いていることを 悟られるのが嫌だとか 重いだろうなとか 考える余裕がなかった 俺は大丈夫だ… だが、だが、どうしても…割り切れない …痛い。 傷みに強いはずのが…痛い ピノコ、お前さんと 別れることのほうが 飼われ、嬲られ、傷を負わされ続けるよりも …何倍も辛い。 「ピノコ…愛してた」 抑えきれずに…心から 震えながら…たった一言 ずっと言えなかった言葉を… 俺は紡いでいた 離れたくない。 忘れたくない。 最後まで 一緒に生きたい。 「…やっぱりとってくゆ。」 もう一度見たら、旅立てない。 俺は熱ぐらい自分ではかるから、寝室に入るなと念押しした。 「よし…」 襟を正して…ほつれた所もないな。 リボンタイをいつもより念入りに整えた 俺は人間らしく衣服を纏うことを、俺の尊厳を よく覚えておきたかった 医者らしく、消毒薬の臭いだけは残しておきたい コートにはいつも通り、メスが詰めてある。 窓から抜け出す時に一度コッソリピノコを見た。 さよなら、ピノコ。 ごめんな、お別れのあいさつもできななくて。 「今までありがとう、ピノコ…」 呟くのが精一杯だった。 「ほら、こっちから赴いてやったぞ。お前さん達のアジトとやらに連れていくなら、さっさとし…ツ!!」 スタンガン…。 崩れ落ちる俺は 最後に目に焼き付けたかった。 青い海、 流れる雲、 風にそよぐ草花、 ちょっと古い 頑丈な俺の家。 あの家には ピノコ、かわいい俺の家族がいて キリコとの思い出が、詰まってる 二度と戻ることはないかもしれない光景を焼き付けた。 …さよなら 俺の好きな場所 …さようなら 俺の愛する人 …さようなら 俺の希望 「ハメルーンの笛吹男」 俺は分かっている 絶望に身を 堕とすことを ♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜 別れは決めた。 腹は括った。 だが。 人間そう簡単に割り切れるものではない。 特に俺のような人間は 見えない希望を 想像で導く 俺は最後まで絶対に諦めない 俺はまだまだ生き残るつもりだ。どんな監禁生活でも、真っ当してみせる。 俺は『ハメルーンの笛吹男』の人物像をプロファイリングした結果、俺がどういう暴行を受けるのか、 被害者の遺体を見ながらシュミレーションし、生き残る可能性を模索した。 俺のような「天才肌」タイプは、基本的に、致命傷は与えないことに一筋の光があった。 「自ら手を下す」場合と「精神的に追い込む」場合、俺は後者だ。 ただし、致命傷でないというだけで、性的な暴行による鞭、蝋燭、拘束…などにより、責め立てる。一種のSMプレイのようなものだ。 俺のような自尊心が強い人間のプライドを傷つける事を目的とし、死に導くようだ。 無論、笛吹男は楽しみを持続させたいので、残念に思うのだろう… となると…俺は「死」に「救い」を見出だすような精神的な責めを耐えるということになる。 また、余興を長く楽しみたい欲求、サディスティックな一面が見受けられるから…強く、「自分」を失わず狂うこともなく、 あくまで俺は俺なのだと振る舞う人間が好みのタイプのはずだ。 つまりどんな目にあっても、自分を捨てずにいることが、生き残る方法だと結論づけた。 …傍らの東洋人のように 俺は生き残る 専門外ではあったが 俺のプロファイリングは完璧なはずだ。 10年間監禁された後 開放された後 自殺した被害者がいた 俺は間違えても 自殺などしない 今まで通り、 これからも 死ぬほどの苦しみを 乗り切ってやる。 隙があれば逃走して 必ずあの家に 必ずあの場所に 帰ってみせる 天才外科医ブラックジャック…俺の診断書に間違いはない。 だが俺はこの時、 想定外の ミスをした。 それは決定的なミスだった 「誤診」とも言う誤診