まあるいケーキに、じぶんのとしの数だけろうそくをたてた。
ひといきでけしたあと、あたたかい、はくしゅ。
てわたされたつつみには、あおいいろのりぼんがかけられていた。
そのなかみは、ぼくがほしいといっていた、ぷれぜんと。
数年前まで当たり前だったお誕生日は、未来永劫届かぬものとなった。
母が死に、父が行方知れずとなった自分の身柄は、国に委ねられることとなる。
数年間措置されていた施設では、誕生日は、月ごとに纏めて祝う形式であり、勿論、自分だけのケーキなどない。
そして、生年月日など、他人と区別する記号の一つであった。
ただ、いつも思うのは。
この日に母が自分を産んでくれたという事実。
母が産んでくれなければ、自分は存在していない。
確かにいたのだ。母は、自分の母として存在していたのだ。
そう確認する日に、なっていた。
■■
ぱん!ぱん!ぱん!
「はっぴーばーすれー!おめれろー!ちぇんちぇいッ!!!」
「………ピノコ…」
「びっくりちた?」
「……襲撃されたかと思ったぞ」
「もう!ちぇんちぇいったら、じょーちょーがないー」
「…情緒な」
情緒がないと言われようが、玄関を開けた瞬間に破裂音がすれば、裏家業の人間は銃声と勘違いするだろう。
と思いつつも、それを口に出さず、天才外科医は自分の頭に降りかかった紙テープの束を掴んだ。
だが、助手の少女は「今日かえってきてくえて、よかった!」と満面の笑みを浮かべている。
小さな手が、天才外科医の手を握り、こっちらよ、とキッチンへと連れて行かれた。
食卓用のテーブルには、ホールケーキと少女が得意とする料理が、所狭しと並べられ、とても豪華な夕食であった。
「ちぇんちぇい、おたんじょうび、おめれろー!はい!」
椅子に座ると、少女がつつみを手渡してくれた。
青色のリボンのかかったそれを、天才外科医はじっくりと見詰める。
「開けないの?」
不思議そうに覗き込んでくる少女の頭を、天才外科医は軽く撫でた。
「いや、楽しみは、後でとっておこう」
「おどろくよー!」
「ああ、期待してる」
答えて、天才外科医は、改めてテーブルの上を見た。
ホールケーキも、恐らく少女の手作りだ。
未来永劫、叶わぬものだと諦めたそれが、まさか再び得られるとは、思わなかった。
「ケーキから食べてもいいのか?」
「らめ!ケーキはデザート!」
膨れて怒る少女に、冗談だ、と天才外科医は告げる。
満たされた思いを笑顔に浮かべながら。
-終-
2011.9.8 コウ
※遅すぎる、クロオの日の記念小説(汗)