岬の診療所の日常風景

■coffee


 そういえば、いつからだった、だろう。

「え、何?先生」
 夕食後。ソファーに座る天才外科医の目の前に置かれた、マグカップ。
 一つはBJの。一つは助手の彼女のもの。
 その中身は、食後のコーヒーだった。

 そういえば、いつからだった、だろう。

「なんでもない」

 マグカップの中身を啜りながら、天才外科医は考える。
 昔は、ココアしか飲めなかった少女のマグカップの中身が、コーヒー牛乳になり、カフェオレになり、そして、天才外科医と同じ、ブラックコーヒーになったのは。

 彼女が、自分と同じものを飲めるように、なったのは。



■煙草


 「た ば こ は だめー!!!」
「いいから、返すんだ、ピノコ!」
「値上がりしたんだから!家計に響くー!」
「最近はパイプしかやってない!日本の煙草じゃないだろう!」
「もう、お医者のくせにー!」
 ばふん。
 馬乗りになった助手の少女は、天才外科医の腹にクッションを叩きつける。
 そして、ぽつりと、呟いた。
「…私も、吸ってみようかなあ…」

 翌日、天才外科医は禁煙をはじめたとか、どうだとか。


2011.11.8
透明音階+(http://kewpiem.yumenogotoshi.com/)