或いは、必然。
空港のターミナルで死神を見つけてしまった。
白銀の長髪に黒いコート、長身痩躯の異質な物質。嫌でも、目立つ。
それでも、奴を発見したのは、数メートルと迫った時だった。
視界にその姿を認めた時、息を呑んで立ち尽くしてしまった。
さぞかし滑稽で、さぞかし不自然であっただろう。
「よう、先生」
奴は、何の感情もない、無機質な声で話しかけてきた。いつもの、事だが。
「相変わらず、こんな小国まで出張とは、物好きだな」
「あんたに言われたくないな」
声が震えそうになる。いつもの声で、いつものように軽口が言えているのかさえ、わからない。
死神は顔色ひとつ変えず、眼を覗き込んできた。
暗い碧眼。
それはありふれた色のようであり、この世に一つしかないような気もする。
「寄るな、死神」
思わず、視線を逸らす。
その眼は怖い、何もかも見透かすような無機質な目。
その碧眼に映し出されるのは、あの少年の瞳孔の開いた眼。両親の涙を含んだ眼。
死神は、素直に顔を引き、そして抑揚の無い声で言う。
「BJ先生のお陰で。俺の仕事が一つ減ったな」
「嫌味か」するどい視線で問う。
「ただの、感想だよ、先生」死神は言った。「お前、その顔でお嬢ちゃんのところに帰る気か?」
ズキンと心臓が痛む。
瞬間、近づく死神の碧眼に、俺は魅入られる。
「……取り零さずに掬い上げる手と、それでも毀れてしまった者に向き合える、お前は強いな」
唇に触れられた感触。
気付くと、死神は背中を向けて、真っ直ぐに歩いていた。
足が震え、その場でへたりこみ、人の流れの邪魔をする。
お前は、強いな
本当にそう思うのか、死神。
そう問う前に、お前は姿を消してしまう。
俺の望む言葉を残して。
気障な男だと思う。
奴は甘い。
俺だけに甘い死神。
-終-
2010.12.13