死神先生を交えた2話


 「帰れ」
「…訪問理由ぐらい聞けよ」
 天才外科医は、開けたドアを力づくで閉めようとするが、それよりも早くドアの隙間に革靴を差し込んでそれを阻止する死神の化身は、この遣り取りを想定してたのだろう。
「俺は、貴様に用事などない…!」
 ぎぎぎ、と木製のドアが悲鳴をあげるも気にせず、天才外科医は力を篭めてドアを閉めようとする。
「俺は、あるんだよ、先生」
 だが、死神も負けじとドアをこじ開けようと、反対方向に力をこめるため、憐れなドアは、反発する力に捕われ、破壊寸前であった。
「もう、二人ともやめなちゃい!」
 あわれなドアを救ったのは、天才外科医の助手である、少女であった。「ちぇんちぇい、こんな酷い雨なんだかや、いれてあげたら?」
「そうだ。優しいね、お嬢ちゃんは」
「ピノコ、こんな奴に親切にする必要はない」
 憮然と反対するが、そんな遣り取りの間にも暴風雨が力強さを増し、大型二輪では危険だということで、天才外科医は渋々と言った表情で、自分のテリトリーに死神を迎え入れる事になったのだった。
「はい、ロクター、タオル」
「あ、有難う、お嬢ちゃん」
「あと、コートちょうらい。浴室乾燥かけるから」
「助かるよ」
 コートを手渡されると、パタパタと少女は忙しく去っていった。
 タオルで白銀髪の水滴をふきながら、死神は、仏頂面でソファーに座り、逆さまにもった新聞を眺めている天才外科医を見た。
「甲斐甲斐しいな、お嬢ちゃんは。お前の教育というよりも、お嬢ちゃんがもって生まれたものなんだろうな」
「黙れ、死神」
 新聞から顔もあげずに天才外科医は答える。
 その声は、禍々しい殺気に満ちていた。
 


■■



一面の菜の花畑で、白い蝶の楽しそうなダンスを眺め、蒼い空を流れる白い雲が美しく、遠くに見える海の色と空の色は違うのだと感動し、その時、足をとられて前のめりに転んだ姿は、無様そのものであったに違いないのに、彼は小さく笑いながらも、その手を差し出してくれた。「大丈夫ですか、可愛い、お嬢さん」と優しい声で囁きながら。

「………キリコか?」
「違う!ちぇんちぇいとピノコの出会い編!!」

 キーボードをカタカタ叩く少女の背後から、ディスプレイの文字を読んだ天才外科医は呆れたようなため息を落とす。
「…くだらん」
「しってますうー」
「お前」彼は言った。「こんな出会いが良かったって、思っているんじゃないだろうな」
「まちゃか」少女は笑って答える。「それは、それ。これは、これなのよさ」
「は?」
「こんな出会い、ちぇんちぇいににあわないよのさ」
 さりげなく、少女は酷いことを言う。
 だが、最もだと思うのも、また事実。







-終-

2011.11.20