トリプルリング


 





「な…」
天才外科医は、自分の左手の薬指を見て、硬直した。
そこには、本日午前10時きっかりに来訪した死神が無理矢理はめた
シンプルなシルバーのリングが、控えめにしかし確実にそこにおさまっている。
「なんじゃこりゃ!!!」
日本人なら誰でも知っている科白を、天才外科医は思わず叫ぶ。
それを聞いた死神は「お?殉職?」と、また外人らしからぬ発言をする。
「何って、結婚指輪。知らないのか」
小馬鹿にした死神の物言いに、天才外科医の血圧は急上昇する。
知らないわけがない。
いや、自分がいいたいのは、そういう事ではなく。
「俺も、お揃い」
きらん。
死神の左手にも同じリングがあると知った瞬間、天才外科医の天才的頭脳が音を立てて噴火した。
「ふざけんな-----!!!!!!」
「わあ、ほんとらね!!」
いつの間にか現れた少女は、嬉しそうに、死神の左手の薬指を眺めていた。
「ピノコのといっちょ!」
「は?」
少女の発言に、天才外科医の血圧が下降する。急激な血圧の変化は体に悪い。
「ほら」少女は自分の左手を見せた。「ピノコと、ちぇんちぇいと、ロクターでおちょろいよのさ」
「な--」
三人おそろい…なにかの戦隊ゴッコでもするのか?指輪を合わせて変身でもするんだろうか。
「深い意味はねーよ」と、死神。「単なるおしゃれ。安かったからな」
「あいがと-ろくた-!」
「もし、お前がしないんだったら」と、死神。「俺とお嬢ちゃんで、ペアリングだな」
「…誰がつけないといった…」
 地獄の底から響きそうな声の天才外科医。
少女は彼と自分の手を見比べて、お揃いの指輪をつけていることを喜んでいる。
その光景を眺めつつ、死神はそっと、自分の指輪を外して、ポケットへと入れた。




-終-

2009.6.1 コウ

2014.2.2 掲載