※ヤング捏造エド影です。



 フラットに帰るのが億劫だったので、研究室に泊まろと思っていた。
 だが、ドクターが帰り際に「私の部屋に、ポトフがある」とか言うので、つい。
 つい、だ。
 そんな事を言われたら、空腹の胃を自覚した脳内には、コンソメスープで煮込まれた野菜とソーセージでいっぱいになった。
 合鍵でドクターの部屋に勝手にあがる。
 今日は教授たちの接待だと言っていた。
 愛想がいいくせに、そういった席が苦手であるのだがら気の毒だが、先方が「ドクタージョルジュを」と指名してきたのだから、仕方が無い。
 勝手に鍋をあけると、栄養たっぷりと思われるポトフが、美味しそうに煮込まれて、とても優しくも美味しそうな臭いを醸し出す。
 ぐううう、と腹の虫がなった。

 鍋半分ほどポトフを食べ、ライ麦パンを齧り、腹が満たされたところで、俺はソファーの上で仮眠をとることにする。
 携帯電話を見ても、着信がない。
 まだ酒の席にいるのだろう。俺は携帯をいじっているうちに、三日ぶりの睡魔に襲われて、そのまま眠りについていた。

 ひやりとした空気が、俺の顔の前にある。
 なんだと目をあける前に、唇に冷たいものを押しあてられた。
「…ッ!…」
 目を開ければ、エドワードの灰銀髪が見える。
 慌てて両手で彼を押しのけようとするが、その両手は先に押さえ込まれていた。
 顔を振ってその口付けから逃れる。
 僅かにひいた彼の口から、震えたような声が落ちてきた。
「…ただいま…影三…」
「な、何をするんですか!寝込み襲って!」
 俺は、未だに解かれない手首の拘束を感じながら、彼を睨み付け…ようとした。
「エド?」
「…影三…」
 手首の拘束が解かれたかと思うと、その腕で抱きこまれる。
 よく見れば、彼はコートを着たままであった。
 冷え切った体。痛いほどの抱擁に、何も言えなくなる。
「あの、えーと、ポトフ、美味しかったですよ」
「そうか」
 息が詰まるほどの抱擁。
 何があったのかは、知らない。
 俺は聞かない。
 彼も、答えない。

 でも、離れない。



2012.2.18