三つのお題から二つのSS

お題:『名前』『雨』『ボタン』
酷い風雨だった。その嵐の中、彼は芝生に這い蹲って何かを探していた。
全身はずぶ寝れて、まるで憐れな飼い犬のよう。雨傘を彼に差し掛けると、彼は動きを止めてこちらを見上げる。
「…ホームズ…」
「ワトスン君、風邪をひくよ」
「…ボタンが見つからないんだよ…」
そう言ってまた芝生に這い蹲る彼の名をもう一度呼んだ。
「僕は大丈夫」彼は言った。「雨が酷いから、先に戻っていてくれ」
「ワトスン君」
 彼の冷たい手に触れる。そして、祈るように彼に告げた。
「形見を失いたくないのは、分かるよ。だが、このままでは君が倒れてしまう」
「…知っていたのか」
   俯く彼の手を、強く握る。
 知らなくても、判る事だ。
 そんな必死な顔で、泣きそうな顔で、探す君を見ていれば。








:お題:『女』『爆竹』『時計』
その小包がベーカー街221Bに届けられたのは、ガイ・フォークス・デーの翌朝だ。
宛先は教養のある女性らしき筆記文字。包み紙に鼻を寄せれば微かに匂ってくるのは、
高級な香水のそれであった。中身は懐中時計。昨夜、ワトスンが不注意から落したもの。
「おはよう、ホームズ」時計の主が起床したようだ。

※ちょうど140字




2011.6.2