140字お題
@不意打ちの雨で雨宿り/Aキスは何味ですか?/B君の声でその台詞を
捜査中に突然の雨に見舞われ僕とワトスンは農夫の家で雨宿りを余儀なくされる。
人の好い笑顔でタオルを借りて滴を拭うのだが彼はぼんやりと農夫の妻の後姿を眺めている。
どうしたんだと尋ねれば彼は頬を赤く染めながら、彼女は僕のファーストキスの相手に似ていると言い出した。
僕は、言葉がでなかった
■
「ケイトウを想う(色褪せぬ恋)」
鮮やかな暖色の色彩に想い出されるのは燃焼と言う意味合いのその学名の由来。
確かにそれは頷けると探偵は笑いを浮かべていた。
ケイトウの色彩畑を抜け探偵は羽音の群れの住まう箱へと。
命ある者を家族と呼ぶのなら今の家族は彼なのか。
ならば
と数年前を想い出す。
血の繋がらぬ愛しい家族の事を
■
これって恋人繋ぎってやつ?/重ねた手のひら/涙は見せない
同居人が慎重に僕の包帯を解いてゆく。
真っ白なそれの下からあらわれたそれを彼は丁寧に診察する。
たっぷりと時間をかけ、何度も、何度も。
「OK。どうやら完治したようだな」
「だから言ったではないか。すっかり治ったと」
呆れたように僕は言うが僕の手に触れながら顔をあげず「よかった」と彼が呟くのが聞こえた
■
『花と眼鏡と』
潜入捜査だというのに、同居人はいつもと変わらぬ恰好で困り果ててしまった。
仕方がないので、眼鏡をかけさせ、タイも色のついたスカーフのようなものを締めさせ、胸に花をさしてやる。
「…ちょっと気障すぎやしないかね」
と照れたように笑う同居人の姿に、動悸が激しい。
これでは逆に目立ってしまう!
■
『幻覚の君は笑い、現実の君は涙する 』『恋の仕方を教えましょう 』『告げなきゃよかった』
目を綴じている僕に、君が優しく僕の頬に触れる
流石だなホームズ
君は綺麗に囁き、そして僕の頬に口付けを
優しい君の温もりに僕の心は温かくなる
綴じている眼を開いてはいけない
この温もりも、声も、全てが霧散してしまうから
記憶の中の君に僕は縋る
優しい君は僕の告白に応えず去ったから
■
『この、リア充が』
ヤードのソファーは硬くて嫌いだとうるさいので、
医師が、じゃあ膝枕してやると言えば、探偵は大人しく横になる。
栄養注射を打つと言えば痛いのは厭だと騒ぐので、あとで腰を揉んでやると言えば
探偵は足もしないと厭だと拗ねる。
「仕方がない…警部、申し訳ないがキャブを」
「へ?あ、わかりました!」
■
ヒマワリの恋(あなただけを見つめている)」
今年の夏はどうなっているのだ。
221Bの共有部はいまや黄色く背丈の高い大輪の花の鉢植えで埋め尽くされていた。
ワトスン君のファンの間でこの向日葵の鉢植えを送るのが流行っているらしい。
お蔭で彼は20を超える鉢植えに水をやるだけで手一杯という有様であった。
冗談じゃない。
だが、言わない。
2015.5.13