傷痕に恋をした四題
(お題配布元愛死哀対)
■傷痕に恋をした■
彼の白い滑らかな肌に刻まれている、戦傷。
それは彼が、僕の知らない場所で、僕の知らない人間によってつけられた、忌まわしい傷。
僕に出会う前に、僕の知らない場所で、僕の知らない人間に。
彼を傷つけた、彼に刻まれた、軍隊で、戦争で。
僕は、その肩の傷に唇を寄せる。
この傷のお陰で、僕は、君と出会えることが出来た。
愚かしい、妄想。
彼が負傷し、戦線を離脱したお陰で、なんて。
彼が傷ついたお陰で、なんて。
僕の知らない場所での痕跡なんて、いらない。
だけど。
この傷のお陰で、僕は君にであえた、なんて。
■その陰に一目惚れ■
いつであったかなど、覚えてはいない。
でも僕は、いつの間にか、君の事を…。
恐らく、初めて会った時から、君の存在に一目惚れ。
■その闇に身を焦がし■
シップスの煙草を吹かしながら、君は一日中、書き物をしている。
締め切りが近いのだと、少し焦り気味で。
穏やかな君が、険しい顔つきで、ペンを走らせている。
カリカリカリ…神経質な音は、まるで心地いいパーカッション。
焦る君の背中は、少し乱れた服装も相まって、普段とは違う君の姿。
僕の喉が、ごくりと、なった。
少し乱れた服装は、普段の清潔感が失われ、変わりに男性的な色気が匂い立つ。
その意識は、一心不乱に、手元のフールスカップに注がれている。
それがすこし、憎たらしい。
■その罪で魅かれあう■
恐喝王の屋敷に忍び込む時に、同行を君は頑なに強行した。
英国紳士である君が。
その行動力に、そして僕の決意に同調してくれる君は、なんて心強い存在。
君となら。
たとえ、共に絞首台に昇ろうとも、きっと、笑っていられる。
2010.8.26