『日曜日の夜』




「コロセ」
独特のイントネーションで、男は笑った。この国の言葉だがこの国で覚えたわけではないだろう。
男はぐったりと身体を壁に預けて動けない。体中には、殴打による傷がこびりつき、激痛は指一本動かすことさえできない。
血まみれの口を開け、男は、もう一度「コロセ」と呟く。歯列は真っ赤に染まり、大半が欠けていた。
男は壊れた機械のように、もう一度「コロセ」と呟いた。
相手は無表情で見下ろしている。
闇夜に浮かぶ銀の長髪。無表情に男を見下ろす死神は、手に拳銃を。
「…キリコ…よせ…」
死神の背後で、天才外科医が呻き声をあげながら、制する。
彼の額からは、一つの血の筋が。





『最後の日曜日』(※R-15)



「君は…本当にいいねえ…」
 無駄に広いオフィス。誰もいない筈の社内には、本来ならありえぬ熱い息と喘ぐ声で満ちている。
「あっ…あっ!…社…長」
切ない声は、とても普段の彼からは想像できない。
彼の第一印象は、鋭利、だ。その笑いは、一歩間違えれば、嘲笑にみられてしまうような。
だが一度その肌に触れれば、その鎧は脆く崩れる。
「…ほら、もっと…ほしいのかい?」
「…あんっ…あ…もっと…つ…よく…!」
 腰をしっかりと掴み、何度も突き上げれば、彼は潤んだ瞳でこちらを見る。
「かわいいな…君は…」
 スーツで武装する君は、実はこんなにも淫乱なのか。
 そのギャップに虜になる人間は、この世界に数人いることに、納得する。
「…社長…」彼は腕を伸ばして、私に甘やかに抱きついた「…イク前に…キスを……」
「…分かった…間くん…」
強請られて、彼の可愛い唇に口付ける。
彼は、私の頭を掻き抱き、夢中で彼を貪った。
一瞬、何か苦味を感じたような気もするが、彼の喘ぎ声に疑問は紛れる。
「…イかせてください…」
 その言葉に、一気に興奮する。
 そして。

 脈をとり、完全に止まっているのを確認してから、間は受話器を手にする。
「ああ、救急車をお願いします。心臓の発作だと思います」
 淡々と告げ、受話器を置く。
「最期に、いい思いができただろ?」
 胸を押さえて横たわる男。蔑むように、間は呟いた。