(1話) 「キリコ、お前が全部悪いんだ、諸悪の根源は…お前さんだッ!!」 「はいはい」 「聞いてるのか、コラ!お前がみんな悪いんだからな、こんッッ畜生めえぇ! 返事は一度キリにしろッ!!」 岬の一軒家だったからいいような。 ご近所迷惑にもほどがあるほどの大音声に頭痛がする。 「…はい、先生。」 -00:01 犯人はお前だ 「…で、お嬢ちゃんが俺の家にお泊り会するのがそんなに気に食わないの」 「万が一、間違えを起こさないとも限らない」 「そんな理由で俺を呼び出した訳…?」 俺は額に手をやって、ズキリとした痛みを持て余しながら何とか応答した。 「…そんな理由だと!?男はみんな野獣だ!!貴様も例外ではない!!」 「ブラック・ジャック…男とも限らないだろお前の場合」 「うるさいッ!!一言余計なんだよ、馬鹿野郎!!死神らしく墓穴でも掘ってろッ!!!」 「はぁ〜元気ね先生」 …今のはちょっと酷いな。あとどのぐらい続くんだ…。 頭痛薬、早目に服用してればなぁと後悔していたら、古風な呼出し音がした。 ジリリリリ♪ジリリリリン…♪ 電話の相手が誰とも知れないのにほぼ核心を持って、ブラック・ジャックはダッシュで受話器を取った。 「…もしもし、私だ。ピノコか、何?…カレー、温めて食べてるよ。」 まるで絡み酒なんて知りませんよといった調子で。 「そうか。花火大会そこからよく見えたか… ああ…おっきいのか…よかったな…食器はピノコが洗ったんだな、よし。 私は平気だが何?…キリコ??いや、この家にはいない…」 …にしても嬉しそうだな。 どんだけ待ち侘びてたんだ…電話一本でときめいてるぞお前! 「…分かった。貴様に代われだとよ!」 お嬢ちゃんには聞かれないように受話器をしっかり手で覆って、俺に毒づく。 俺に見るからに嫌々バトンした。 不意に目が合うとおもいっきり睨まれる。 「心配してくれてありがとう…お嬢ちゃん…あ、なんだユリか… ああ、あのポンコツ車の件な…」 『先生向こうに行ったかちら?』 「駐車場、近くないな。取り敢えず、無茶苦茶に潰しといたぞ」 『上手くやってくえたのね、良かった』 「で、そろそろ教えてくれない?」 『うん…実はね、先生最近眠くなやないみたいなの』 手術が終わった途端に血濡れたまま深い眠りにつくツワモノにそれは妙な話だ。 「…いつからだっけか、調子悪いのは」 『感染症の疑いがあゆって騒動になってかや』 クリアーの一件からか。 「塗装が剥がれたりしたかな…どんな様子?」 『ううん。いつもの先生だかや心配なの。いつも通り寝てて…れもあたち、見付けたの』 「どんな部品を?」 『なんか注射とかビニール袋らとか、吸入器みたいなものらとか。 それに…毎晩飲み薬…たぶん睡眠薬も飲んでゆみたい』 「そう…教えてくれてありがとう」 『先生…あたちに心配かけたくなくて、強がるかや…』 「それはお嬢ちゃんの前では理想の自分でありたいと思ってるからさ。 あいつも男だから格好つけたい、それだけのことさ」 『うん…励ましてくえてあいがとうキイコたん』 「どういたしまして。お嬢ちゃんも今晩は俺に任せてよく寝るんだ」 『先生、治るの?』 「必ず修理するよ。ゴキゲンになったらドライブさ!」 『うん!おやすみ、キイコたん』 「おやすみ」 「さっきから…お嬢ちゃんだと!?」 いつの間にか背後に忍び寄っていたブラック・ジャックにギクリとなる。 驚く隙に再び凄い勢いで受話器を奪取した 『おやしゅみ先生』 このたった一言が聞きたくて 「おやすみピノコ」 このたった一言が言いたくて 「くくっ…」 「今笑ったか死神?」 「いや、痙攣だ」 「だな、笑ったとしたら気色悪い奇声だッ!!!」 「…ケンカ売ってるのか!?」 「ちゃんとお嬢ちゃんに許可とったよ」 俺とブラック・ジャックは就寝時間になり、何処に寝るかで揉めた。 「そこだけは絶対許さん!!」 「じゃあ何処に?お前と一緒でいいの?」 「貴様が俺のベッドに寝ろ、交代だッ!!」 「本当にいいのねぇ…」 ハァ…ハァ… 微かに乱れる息使いが聞こえる。 俺の家にあった輸入酒一年分や持ち込んできたのをチャンポンにして飲み干して ハアハッ…ッグ…ハァ 月明かりに目が慣れてきた。 身体を丸めて、右手を自の首に、左手を心臓のあたりにやってにぎりしめて …苦しんで表情がよく見える。 青白いのは月光のせいだけではないはずだ あれだけ八つ当たりしてもまだ、、 ウッ…ッグ…グゥ… 酸素の薄い高原にいるみたいに呼吸をしようとしている。 「これ?それともこれかなぁ」 「ふッ…なんで分かっ…う…」 俺はブラック・ジャックのベッドの下に腕を突っ込み、 お嬢ちゃんが教えた通りの位置に隠してあった様々な医療器具を投げ渡した。 案の定、ブラック・ジャックは自ら手早く処置をした。 「…少しはストレス発散出来たと思ったんだが」 落ち着いたブラック・ジャックは逃げ切れないと思ったのか白状をする。 「…自覚はあったのか」 「セルフオペとは訳が違うな」 俯いていて…表情が硬いようだ。悩みの深さが伺われた。 「やっぱり簡単には治らないもんだな。 お前の我慢強さをナメてた…気付くのが遅れてすまない」 ショック療法一度きりで治る訳なかった、やはりそれはとっかかりにすぎなかった。 俺は対話療法だとか、続けることを勧めてはいたが、頑なに拒否を続けたその結果がこれだ。 「自分一人で治せると思ったんだが…。」 言い訳じみて聞こえる。 お嬢ちゃんは元より俺にも知られたくはなかったのだろう。 「あんたのその喘息の悪化には心理的な要素が少なからず働いてる。抗体反応が一週間ほど出ただろ?」 「ああ、分かってる。 クリアーの抗体を受けた時、抗体反応が出て俺は微熱ながら肺炎になりかかり気道を痛めた。 それが元々潜在的にあった喘息を覚醒させ助長した。 そして、心理的な負担からさらに一気に悪化した。 下手したら発作が出て呼吸困難に陥るレベルにまで、だ。」 「大体夜半に出る喘息みたいだ…息苦しい程度のがな。 お前さっきの仕種、慣れていたな。それが癖になってる」 「…治らない訳はない」 「お前がその喘息の悪化を進める心因性な原因と向き合う気があればね」 「キリコ…お前さんの治療を受けるしかないのか」 ブラック・ジャックは眉間をよせて、さらに苦悩するように俺に問い掛けた。 「…俺に身を委ねる気になればな」 「…」 「今度こそ話してみろ」 ブラック・ジャックは自分の体内で起こっていることをよく知りすぎるほど知っていた。 だが、それでも俺になかなか話そうとはしなかった。 俺と親父の仲を心配しているのだろうか。それとも他に何か理由があるのだろうか。 「俺が信頼出来ないのか?話しにくいなら専門の奴を紹介するぞ」 「そんなんじゃない」 「じゃあ…話せる範囲でいいから」 「キリコ…ヤッパリお前さんが悪いんだ」 「俺のせい?違うでしょう?怖いのか…大丈夫、少し勇気を出してみろ。 必ず治すから」 俺はなるべく目をみて促すようにした。少しでも力になれるように。 ブラック・ジャックはしばらく押し黙ったあと、俯いてヒトコト呟いた。 「ああ、怖いよ。…お前さんのせいで」 「どうしたんだブラック・ジャック?」 キッとこちらを見上げて、また強い口調で断言した。 「キリコ、犯人はお前だ…!」 次頁