(0話)
20年ほど前。
彼は完全に狂った
それまで、危うい状態だったその微妙なバランスが、
完全に崩壊した
「影三。お前が死ぬのなら、息子をお前の身代わりに、エドワードを道連れにしてやろう」
その一言が、総てを蝕んだ
その一言が、崩壊を招いて
その一言は、彼を、地獄へと誘った
「私は、影三を私だけのものにしたい。それだけだ。
お前のように見ているだけなど、耐えられないからな」
「影三をこれ以上傷つけるのなら、俺が貴様を殺してやる!!」
愛を定義することができるなら、貴方の愛は正しいと言えるのか
「ごめんなさい…俺は…あなたを傷つけてばかりだ…」
「違う、影三、私は大丈夫だよ、傷ついてなどいない」
擦違い続ける言葉。
君を、ただ、守りたいだけなのに
「目の前のあなたを治せなくて、誰を治すっていうの。
影三クンを回復できなければ、エディに医師としての価値なんて、ないわ」
医師として、君を助けたい
「愛だけじゃ、患者は治せないけど、愛がないと治らない」
愛を定義することが、できるとするならば
「私は傷つけてまで、影三の身体を欲しいとは思わない」
「実に巧妙な手口だな。絶対的な信頼を得て、影三はまるでお前を神のように慕っている。
強かで、陰湿な手口だ」
現実と真実の間で、君は何を見るの
パパは、パパはずっとおじさんが好きだったのに、
おじさんはそれを受け入れなかった。全満徳の時と同じように。
だって、一人で生きていくなんて、できない。僕は、ママを捨てたパパを恨んで、憎んで生きている。
パパが死んだら、僕には何もない。
そして、君は、地獄を見る
Chapter 2
『本当に大切なら、絶対に手放すんじゃない。守るんだ。命にかえてでもな』
父が俺に繰り返し教えた言葉の意味を
俺は始めて知った
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