18禁
※暴力描写があります。苦手な方はご注意を!
これは二次創作上の表現です。これらの行為を助長、推奨を目的にしておりませんので、ご理解の程をよろしくお願い致します。  




(1話)




 手近にあった裏が白い紙を、ジョルジュは手にした。
そして「クロオくん、見ててごらん」と笑って、丁寧にその紙を折ってゆく。
ただの白い紙は、折り目をつけられていくうちに立体的な形へと創造されていった。
「ほら」
完成したのは、紙飛行機だった。
鮮やかに生み出されたそれを見て、少年は大きな瞳を輝かせる。
「おじさん!すごい!」
少年は、知っている言葉のなかでの最大の賛辞を送った。
「じゃあ」ジュルジュは少年の黒い髪を撫でながら「この飛行機が、カーテンにぶつかったら、寝る時間だよ」
「うん!」
少年は紙飛行機を手にして、窓へ向かって勢いよく飛ばしてみせた。
真っ白な紙飛行機は、なだらかな弧を描きながら、真っ黒で、遠くを見渡すことも出来ない夜闇へと向かっていった。





■■■■■■






「やれ」
 雇い主の、そのたった一言で、白人のボディガードは暴力を奮う。
 恐らく、暴力で快感を得るタイプなのだろうと、分析していた。
 5発程、拳で顔を殴られると、脳味噌がシェイクされるような揺さぶりと、殴打の激痛が綯い交ぜになり、膝の力が抜ける。
 そのまま仰向けに倒れると、いよいよ男は実に嬉しそうに、腹の上に馬乗りになった。
 顔面を叩き潰すかのように叩きつけられる、拳。
 内臓を圧迫する膝は、肋骨をもそのまま圧し折るつもりか。
 視界の端に、満徳の、実に満足そうな笑顔がうつる。
 あの男も、暴力で人間を支配したがる人種だ。
 満徳が歩み寄ってきたときに、苛烈な暴力が止む。
 奴の指が、腫上がり、半開きとなった唇から、口腔内へと指を滑らせてきた。
 ねっとりと、気味が悪いほど丁寧に弄られ、下顎とその歯列をなぞり、ニヤリと笑う。
「歯が、折れたか」
 次の瞬間、奴は折れた歯を摘むと、一気に引き抜いた。
 歯神経と歯茎がぶっつりと千切られ、下顎から歯茎へかけて、まるで五寸釘を突き刺されたかのような鋭痛が襲う。
 咽喉の奥から、一瞬だけ悲鳴が漏れたが、それでもそれ以上の声を発さない。
 血液の混じる唾液が、腫れた唇を伝い落ちた。
「綺麗な、歯だな」
 自分が引きぬいた歯を、奴はジッと見詰めている。
 真っ赤に染まる欠けた歯を眺めると、奴は、それを自分の口の中へ放り込んだ。
 そして、飴玉でも舐めているかのように、ころころと口の中で転がしている。
 その異常性に、ゾッとした。いや、今更なのだが。
「お前の歯で、差し歯でも作りたいものだな」
 ひとしきり舐めると、奴は歯を取り出し、丁寧に包ませる。
 そして、そのまま口付けられた。
 引き抜かれた歯の部分を、執拗に舐り、歯茎を抉り、そこから溢れ出る血液を啜り上げる。
 一滴も零すまいと啜る音に、背筋が凍りつくようだった。
「お前が、悪いんだよ、影三」唇を僅かに離し、奴は囁く。「ワザと逃がしたという行動が、な。私に逆らうのが悪いんだ」
「…知らないな…」
 吐き捨てるように呟くと、再び唇を塞がれる。
 言うわけには、いかなかった。ばれるわけにも、いかなかった。
 まさか、どうしてこんな場所で出会うなんて。
 資料室にいた侵入者を発見したのは、ほんの偶然だった。
 その侵入者が、あの時の、少年だったなんて。
 知られては、ならない。同時に知らせなくては、ならない。
 危険だ。だから決して近づくな。頼むから、このまま手をひいてほしい。
 この男は、歯向かう人間に、容赦はない。 
 腫れあがった舌をきつく吸われて、引き裂かれるかのような激痛が。
「ジョルジュの治療効果は上々だ」
 気の済むまで血液と唾液を啜り上げ、満徳はようやく離れた。
「データとしては、上出来だ。あとは…治療薬の完成のみで、あの男は用済みだ」
「…まだ、臨床データとしては、不十分だッ!」
「いや、あれでいい」
”用済み”という言葉に顔色が変わるのを見て、実に愉快そうに笑みを漏らした。「可愛い、影三…いつから正気に戻っていた?…そのまま洗脳されている振りをしていれば、良かったものを」
「………完全ではない……まだ、数時間程度だ…」
「まあ、いい」満徳は言った。「昨夜、ジョルジュにお別れは言ったのだろう?自己暗示とは、さすがだな。可愛い影三、奴の努力を無駄にしてやろう」
 ボディガードの持ってきたアンプルと注入器に、奥歯を噛み締めた。
 それは、洗脳薬『クリアー』だった。
 つまりまたこれを使用し、自分に忠実な側近にでもなれ、と。
「これを使用する前に、お前と鑑賞したいDVDがある」
 アンプルを見詰める横顔に、奴は、告げた。「我ながら、よく出来たと思うよ」
「何を…?」
 不審な言葉に、僅かに恐怖を覚える。
「ジョルジュに渡したものだ」奴は、唇を歪めて、愉快そうに。「お前も、見たいだろう」
 厭らしい笑みからは、満徳の考えを窺い知ることは、できなかった。


 これ以上、これ以上、誰も傷つけたくないと思うのに。
 剥き出しの刃は、触れる者を切り裂いてしまう。
 傷つけたいと思っているのは、たった一人だけなのに、その為の犠牲が、こんなにも大きいなんて。
 日に日に顔色が悪くなるジョルジュ。
 彼を見るのが、辛かった。
 酷なことをしてしまった。後悔をしても遅いのだけれども、だけど優しすぎる彼は、その罪悪感に苦しんでいる。
 その事を知ったのが、昨夜。
 魘される、彼の言葉に、心臓が凍りつく。

 あなたに、罪を背負わせてしまった。
 その罪が。

「大丈夫、夢を、見ただけだ」
 そう、彼は力なく笑う。

 その夢が、彼を蝕む。
 その夢が、彼を苛む。
 
 彼の夢は、決まって、岬へ向かうところから、はじまるのだ、と。

 
 海の臨める岬の先。
 まるで外界から離れたような場所に、天才外科医の診療所はあるという。
 それは、悪質とも、悪徳無免許医とも罵られる男が住む場所にしては、とても穏やかな場所に見えた。
 もしかしたらそれは、彼が求めたものなのか。
 一見して、とても診療所にはみえない木造家屋であった。
 一望できる海原に、幼い言葉を思い出す。

『おれ、ふなのりになるんだ!』

 そう熱心に少年は語ってくれた。
 海が好きなのだと、少年は言っていた。そしていつか、外国の海にも一人で行ってみたい、と。
 船乗りになりたいと語った少年は、今、天才外科医と呼ばれる青年となった。
 その過程に、彼を変えざる得なかった現実があった。
 彼は、彼はそれを乗り越えてきたという。たった一人で。
 強いと思う。その頑なとも言える生き方が、彼を悪徳とも天才とも変えたのか。
 ジョルジュは小さく息を吸って、粗末な呼び鈴を押す。
 じっとりと、汗をかいていた。
「…誰だ…」
低い男の声だった。
ゆっくりと玄関のドアを開ける。そこには…
「…ブラック・ジャック先生、かな」
そこには、青年が立っていた。
人を硬直させるほどの、鋭い眼光。
紅い眼。
顔面を斜めに横切る手術痕。
色の違う肌。
白と黒にはっきりと分かれた、髪色。
「…そうだ」
青年は答える。相手の出方を伺うように、隙もなく。
だが、それでも、似ていると、思った。
「初めまして、私はジョルジュ、北米で医師をしています」
似ていると、思った。
その瞳も、隙をみせぬ態度も、意志の強い眼光も、その口元のゆがめ方さえも。
彼が、彼があの幼かった少年であったと、どうしても一致しない。
少年であるよりも、彼は、彼は似すぎている。
まるで生き写しのようだ。
「エドワード…ジョルジュ…もしかして」
「え…」
思いがけない言葉に、ジョルジュは言葉に詰まる。確か、ファーストネームは言わなかったはず。
まさか、まさか。
「まさか」彼は言った。「キリコの…父親の……エドワード…おじさん?」
「そ、うだよ、覚えていてくれたのかい」
 胃に焼けた石でも詰め込まれたかのように、喉が熱く詰まった。
 覚えていた、彼は、覚えていてくれたのか。
 全身が震える。
 覚えていたのか。君は、私のことを。
「お久しぶりです!」
彼は破顔した。まるで少年のように、それは無防備な笑顔。
「久しぶりだね、黒男クン」ああ、そんな顔を見せないで「私のことは、忘れていたと思っていたから」
「忘れませんよ、おじさんのことは」
手を握り、彼は弾んだ声で話してくれる。
混乱する。その笑顔は似ているよ。ああ、そんな顔をみせないで。いっそ、君が私を覚えていなければ。
 彼に促され、リビングのような場所へと通される。
 明るい室内は綺麗に整頓され、テーブルの上には花が活けてあった。
 ああ、そう言えば、彼は幼い少女と同居しているのだという。
 身寄りのない患児を引き取ったのだと、噂では聞いている。
「…一人、なのかい?」
「え?」彼は少し首を傾げ「ああ、ピノコと同居しています、ピノコというのは、私の助手でして…今は買い物に行っています」
「そうか、会いたかったな」
今、いないのか。できたら、その少女が戻ってくる前に済ませたい。
黒男だけではなく、少女まで傷たくはない。
「部屋を見たら、怒るかな?」
「大丈夫ですよ」
彼は、やはり笑いながら私を家の奥へと案内する。
「ヌイグルミだらけで、埃っぽいですが」
君は、君は普段なら、そんな笑顔を見せたりはしないだろう。
自分のテリトリーを他人に見せたりなど、しないだろう。
総ては、私だから、か。
 廊下をすすむ途中、ちらりとドアの隙間から、殺風景な部屋とベッドが見えた。
恐らく、ここが、彼の寝室。
「…黒男クン…」
ジョルジュは、静かに寝室のドアを開けて、彼の名前を呼ぶ。
彼は振り返り「ああ、そこは」といいながら、ゆっくりと近づいてきた。
ゆっくりと、彼は、無防備に近い状態で。
「おじさん?」
少年のように、彼は私を見上げた。そして数歩手前で歩みを止める。
ただならぬ雰囲気を、感じ取ったようだった。
 彼の不思議そうな表情。
 それがたまらなく、辛かった。
 ジョルジュは、彼の胸倉を掴むと、引きずるように寝室へと引っ張り込んだ。
 そして力任せに、彼をベッドへと突き飛ばす。
 呆気なく、彼は自分のベッドの上へと倒れこんだ。
「お、じさん?」
驚いて瞬く、眼。まるで、まるで少年のような、まだ、私を信頼している表情。
胸が、痛い。苦しかった。強張る意識に、無理やり叱咤する。


  影三の為だから


「や…な、にを…!止めろ!」
 彼の体に圧し掛かり、全身で動きを封じる。
 見開かれた瞳。紅い、紅いそれは、彼の母親にそっくりで。
 怯えたように歪む表情に、あの忌まわしい画像が重なり合う。
「影三…!」
思わず口からでた言葉に、組み敷かれた彼の体が硬直した。
「な、に?」
掠れた声。その耳を甘噛みし、肩口に顔を埋めると、泣き出しそうな彼の声が響く。
苦しい、苦しかった。
今自分がしていることは、そうだ、全満徳と一緒じゃないか。
あんなにも殺してやりたい、医師である自分が殺意を持ったあの男と寸分違わない。
それでも、それでも、影三、君が、私を頼るなら。
「おじさん、やめて!俺は、俺は違う!」
 必死で叫ぶ彼の声。総てが重なり合う。
 ああ、それなら、それならば。
「影三、愛してる、愛してる…」
「違う!」
「影三…」
「違う!俺は、パパじゃない!!」
必死で否定する彼の言葉を、意識から追い出した。そうだ、今の私は全満徳と一緒だ。
自分の欲情にまかせて、君を陵辱したくてたまらないんだ。君を、抱きたいんだ。君が欲しい。
チガウ ワタシハ キミヲナカセタクハナカッタ
「やめろ!やめて!俺は…キリコ…キリコ!」
腕をめちゃくちゃに振り回し、彼は形ばかりの抵抗をする。
それはまるで少年のような。
白いYシャツを引き裂き、彼の色のついた肌を舌先でなぞる。
彼は押し殺したような、甲高い悲鳴をあげた。
「…やめ…おじさん……きり…」
それは泣き声だった。違う、違う、君を泣かせたくない。
「泣かないで…影三…」
彼の頬を左手で拭い、その頬に口付ける。彼の紅い眼が大きく見開かれて、天井を凝視していた。
彼のベルトを緩め、ズボンを寛げて腰から抜いたが、彼は抵抗すらしなかった。
ただ、小さく呟くように名前を呼ぶ。「キリコ…助けて…」と。
だが、その言葉を意識から追い出す。聞いていない、聞こえていない。
そして、彼のむき出しになった性器を口に含むと、彼は大きく体を戦かせた。
「い…やだぁ…キリコ…キリコ……」
彼の性器を含み、ゆっくりと味わう。
そうだ、私はそうしたかった。私は影三を抱いて、君を私のものにしたかった。
君の愛しい性器を口にし、味わいたかった、君の精液が欲しかった。
キミガイヤガルコトハ シタクナカッタ キミノカラダガ ホシイワケジャナイ
タダ、キミヲ、アイシタカッタ
「ぅあ…怖い!いやだ!いやだぁ!」
口に含まれたまま、彼はジョルジュの口の中で吐精した。
はあ、はあ、と熱い息が空間を濃密にする。
その上気した頬と、涙に濡れた紅い眼がアンバランスな色を醸し出し、目を覆いたくなるような淫靡な空気を纏わりつかせる。
その表情で君を無理矢理引き出した。
そうだ、彼は君とそっくりだから、君を抱けばきっと君もそんな顔を。
「…影三…可愛いよ…影三…」
「…ちが…う…」
 ポケットからチューブをとりだして、その中身を彼の後孔に塗りこんだ時、彼は悲鳴をあげた。
「いや、だ!おじさん、やめてください!!!」
それは悲痛な懇願だった。
彼の後孔は慣れているかのように、慣らすとすぐにやわらかく解れた。
「いやだあぁ!」
その悲鳴を意識の外においやった。
彼の足を大きく開き、膝が彼の胸につくぐらいに屈曲させる。
そして、私は自分のペニスを彼へと挿入した。
「いやだぁ!!キリコ!キリコ…!」
 根元まで、しっかりと食い込ませる。彼は苦しそうに息を乱した。
「うあぁあ!」
少年のような叫び声だった。ゆっくりと動くと、彼は涙を溢れさせながら、名前を呼ぶ。
 それを、私は意識の外へとおいやる。
 違う、そうなんだ。私はずっとしたかった。君を抱きたかった。君に私のペニスを挿入して、君の体を味わいたかった。
 可愛い影三。私に体を差し出して、私に抱かれている。君が、君が愛しいよ。
イヤダ ヤメロ ワタシハコンナヒドイコトヲシタクハナイ キミヲダキタインジャナイ
「いい、よ、影三…もっと…欲しい…君が…君が!」
 律動を繰り返す。それは彼が気を失っても続く、不毛な行為。
 彼を壊し始める残酷な行為。
 

 本当は、知っている


 チガウ ワタシハ ワタシハ クロオクンヲカゲミツダトトハ オモッテイナイ
 

「影三、愛してる…私のものに、もっと、もっと可愛い声を聞かせて…」


 

■■■■





 その影像を、影三は愕然と眺めている。
 時折「…嘘だ…」と呟いてる。いや、言い聞かせているのか。
「この部屋は、ああ、懐かしいと思わないか」ゆっくりと、影三の耳に囁いた。「ああ…本当に惨たらしいな…だが美しくも見える…」
「や、めろ…なんで…これは……」
 影三の頬を冷たい汗が伝い落ちる。
 食い入るように見詰める彼の表情に、20年前を思い出した。
「実に最高だ。ジョルジュもこれを楽しんでいたよ」
 その汗をじっくりと味わう。
 だが彼は微動だにしない。まるで、動くことを忘れたかのように。
「…嘘だ…」影三は、再度呟いている。「…これを?……まさか………嘘だ…」
「歓んでいたよ。奴も一皮向けば、変態と同類だな。お前の信じる善人面の正体は、ただの男だと、言うだけだ」
「…………!」
 影三の咽喉の奥で、空気の鋭い音が鳴る。
 信頼と現実の間に引かれた、細い糸がぎりぎりと今にも切れてしましそうだ。
 その糸が切れたとき、お前は支えを失ったマリオネットのように、地に伏しるか。
 それとも、自ら再び、立ち上がるのか。
 ああ、そうだ。
 お前はあのときは、私の行為に耐え切れず、心と身体がバラバラになった。
 それでも必死で生きようとした。
 お前を生かすために、お前をジョルジュに預けたことがあった。
 あの数ヶ月。
 耐え難い時間だった。何度、ジョルジュの命を踏み潰そうと思ったか。
 だが、今はこれがある。
 ジョルジュがいなくても、これがある。
 画面を食い入るように見詰める影三の腕に、注射針を突き刺した。
 そして、ゆっくりと、ゆっくりと、注入する。
 洗脳薬『クリアー』
 これがあれば、お前をジョルジュに預ける必要などない。

 20年前。
 あの時にこの薬があれば、お前を手放さずにすんだ。
 それだけが、口惜しい。
 20年前に、これがあれば。











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