18禁
※性暴力描写があります。苦手な方はご注意を!
これは二次創作上の表現です。これらの行為を助長、推奨を目的にしておりませんので、ご理解の程をよろしくお願い致します。  




(7話)






 最高級のスィートルーム。
 そのにはとてもそぐわない、張り詰めた空気が、室内を支配していた。
 それは殺気だった。
 銃口をつきつける彼と、突きつけられながらも、嘲笑する男。
 それらを見守るボディーガードと、その三人の空気が糸のように張り詰めて、緊張を強いている。
 
 ただ、時折響く情事の音が、彼の神経を逆なでる。






Chapter 2-敗 北-







「もう、よさんか、ドクタージョルジュ」
まるで子どもを諌めるように、満徳は笑いながら口を開く。「お前には、私は撃てまい」
「…それは、分からない…」
 引き金にかける指に、力が篭る。
 銃を使用したことは、何度かある。だがそれは何れも狩猟の類の時であり、人間を撃ったこと等ない。
 ましてや、ジョルジュは医師だ。
 命を生に繋ぎ止める技術を持つ手で、命を奪い去る行為を、しようとしている。
 何を、躊躇う。
「エドワード」満徳は笑った。嘲笑うように、優位に立つ者の声で「お前がその引き金を引くなら、それ相応の代償を支払うことになるな」
「…何…?」
 言葉がすぐには飲み込めなかった。
 それを悟ってか、満徳はゆっくりと壁掛け時計を見上げる。
「いい時間だ」満徳は言った。「スクールバスに子どもたちが乗り込んだ頃か。これほどの積雪…事故などおこらなければいいがな」
「…貴様ッ!」
 咽喉の奥から、新な怒りが吹き出るようだった。
 そうだ、この男なら、やりかねない。
「影三とお前の息子…引き換えられるのか?」
「人間をモノのように言うなッ!」
 剥き出しの怒りに、満徳はゆっくりとジョルジュに近づく。そして、彼が手にする短銃に手をかけた。
 そして、その銃口を自分の胸に押し当てる。
「やってみろ」厭らしい笑みで「父親に裏切られるお前の息子は、どんな死に顔をするのか、楽しみだな」
 するりと、ジョルジュの手が短銃から離れた。
 そして、力を失ったように、床に膝をつく。
 人質。そういうことなのか。ああ、この男なら、笑ってキリコを殺すだろう。
 うな垂れたまま、床に手をつき、ジョルジュはそのまま頭を下げる。
「…頼む…影三を解放してくれ…」
震える声。屈辱に怒りに視界が歪むが、ジョルジュはそれでも頭を下げつづけた。
「やっと…食事が摂れるようになったんだ…頼むから、これ以上、影三を傷つけないでくれ…」
 土下座と呼ばれる、屈辱的な懇願だった。
 頭を床に触れるほど下げるジョルジュを、満徳は愉快そうに見降ろしていた。
 プライドの高い男の、こんな憐れな姿など、みたことがない。
 満徳は、ボディーガードに顎で指示をだす。
 刹那。ジョルジュの頭部が蹴り上げられた。
 激痛に顔を顰めると、すかさず頬に拳を叩きつけられる。
「…っぐ…!」
 ガードする暇も避ける暇もなく、ジョルジュは暴力の餌食となっていた。
 胸倉を掴まれて、顔をあげさせられた時には、頬は腫れあがり、唇の端からは、血液の混じった唾液が滴る。
「なあ、ジョルジュ」
満徳の手が、ジョルジュの髪を乱暴に掴む。引き寄せられた顔に、言葉を叩きつけていた。
「お前が影三を治せなければ、お前がBOPの発見者でなければ、私は当の昔にお前のことを、縊り殺していたよ」
「奇遇だな」それでも、ジョルジュは笑ってみせる。「俺も…もっと早くアンタを殺しておけばと…後悔しているところだ…」
「減らない口だな、お前は」
 髪の毛から手を離し、満徳は何やらボディガードに指示をだす。
 ジョルジュは口に布製のものを押し込まれると、上から帯状のもので口を塞がれた。
「…ッ!…」
抵抗しようにも、男に押さえられて身動きがとれなかった。それは、随分と手慣れた手つきだ。
「いい様だな」ジョルジュの顔を覗き込み、満徳は口を歪めて笑った。
 何を考えているのか、まったくわからないまま、ジョルジュは男に引きずられるように連れて行かれる。
 そこは、大きなベッドが置かれている部屋。
「影三を返してやろう」満徳は言った。「だが最後に、お別れを言わせろ。また、暫く会えなくなるのだからな」
 壁際に押し付けられた。先ほどの殴打のせいか、まだ頭部が鈍くふらついている。
 中央のキングサイズのベッドの上に、両手を拘束された裸の男の姿があった。
 アイマスクで顔は隠れてはいたが、間違えるはずもない、それは、それは。
「…、…ッ!!」
ジョルジュは思わず叫ぶが、声は布に遮られてくぐもった音にしかならない。
満徳はにやりと笑ってみせた。
その笑い方に、戦慄する。まさか、まさか、まさか。
「影三…」
「全…大人…」
 裸の彼の上に圧し掛かり、満徳は優しく問い掛ける。「…可愛い影三…お前は、誰のものだ…?」
「…うんッ…」触れる手に敏感に身体を逸らしながら、彼は答えた。「…あ…俺は……全大人の…もの…!」
「-----ッ!」
 くぐもった悲鳴をジョルジュはあげた。
 そんな言葉、聞きたくはなかった。君は、君は、何を言っている…!
「欲しいか、影三」
 いやらしく、満徳は囁いた。そしてするりと裸の胸を撫でると、彼は大きく喘ぎながら叫ぶ。
「…あぁッ!…焦らさな…いで…!」
「ちゃんと、強請るんだ。いつものようにな」
 言葉に耐え切れず、ジョルジュは弾かれたかのように身を乗り出して手を伸ばした。
 だが、その手は空を掴み、そのまま乱暴に組み伏せられる。
 目の前で、彼は満徳を求め、受け入れる。
 拒む気配のない、その嬌声に意識が眩むようだった。
「…んっ…いい…もっ…と……深く…」
耳を覆いたくなる卑猥な水音と、その強請る言葉に直視ができない。
 悔しさと、情けなさに身体が震える。
 あまりに非力だった。
 床からは、その行為は見えない。ただ、ギシギシと烈しく揺れるベッドのスプリングの音に、耐えるしかなかった。




■■



 全身の気だるさで、目が覚めた。
 影三は、ぼぉとした頭で、天井を見詰める。ベッドからみる見慣れた天井だった。
 唇がからからに乾き、身体の節々が痛い。
 身体を起こそうとするが、何かが腰を圧迫していていることに気づく。
 少し、身を捩って自分を圧迫するものを見た。
 それは、うつ伏した灰銀髪の頭。
「…エド…?」
 声に出そうとするが、掠れてうまく音にならない。
 だが、ジョルジュは弾かれたように顔をあげた。「影三、大丈夫か?」
「俺…?」
 頭が熱くて、うまく記憶を引き出せない。
 全身の気だるさと節々の痛みから、熱発しているのだろうと、考えた。
 ジョルジュは自分の手を影三の額に当てる。
 その手が、ひんやりとして気持ちいい。
「まだ…熱があるな」ジョルジュは呟くように、言った。「…何処まで、覚えている」
「え…と」
 考えようとするが、思考が形にならず霧散する。何も、思い出せない。
「そうか」ジョルジュは少しだけ笑って見せた。「…倒れたんだよ、熱で。今日で丸二日だ」
「…そんなに?」
「無理をしないで」
「エド…それは…?」
額に触れる手に、影三は自分の手を重ね、そしてジョルジュを見る。
憔悴しきった表情。いや、それよりも、頬に青い内出血がみえた。
まるで、殴打のあとのような。
「ああ、ちょっと転んでね」
 なんでもないよ、と小さく呟き、ジョルジュはストローを差したコップを手に取ると、ストローの先を彼の唇の傍へ。
「水だ。飲んで」
 ストローを含むと、影三は水を飲む。乾いた咽喉に、心地よかった。
「…果物でも、食べることができるといいが…どうだ?」
「…じゃあ、りんごでも…」
「分かった」
 彼はコップを持ったまま立ち上がり、寝ているように指示をだすと、部屋からでていった。
 丸二日も寝ていたという。
 それで、身体が痛いのだろうか。
 寝返りをうったとき、左腕が僅かに鋭く痛んだ。
 思わず腕を庇い、恐る恐るその原因を見る。
 腕には、複数の注射針の跡があった。



 りんごの皮を剥きながら、ジョルジュは小さく息を吐いた。
 微熱は、しばらく続くだろう。
 記憶がないのは、一時的に混乱しているのか、脳の防御作用が働いたのか。
 できるならば、忘れたままでいてほしい。
 本気で願ってしまう。
 満徳の陵辱が終わり、実に満足そうな奴から薬瓶を手渡された。
 手書きのラベルから、それが媚薬であることを、ジョルジュは知る。
 それも
「お前の薬だ」事実を、告げられる。「効果を目の前で見ることができて、嬉しいだろう?」
 嫌味な言葉に反論ができない。
 その媚薬は、ジョルジュが、やはり満徳に命じられて作ったものだった。
 原液のままであれば、あまりに刺激が強すぎて、死に至る。
 だがこれを希釈することによって、効果を自由に調節できる。
 触れた瞬間に、達することも。それだけでは達することができずに、苦しむことも。
 自分が作った薬。
 これを使用され、彼はあんなにも乱れていたのか。
 自分が開発した薬のせいで。

 開発者であるのだから、薬の効果を中和させるのは簡単だった。
 だが、相当の無理を強いたのか、彼は熱発した。
 そのせいで、彼は忌わしいその記憶を無くしている。
 このまま、なくしたままでいてほしい。
 そのまま、何も考える事無く。
 どうか、君が傷つかないように。






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