18禁
※性暴力描写があります。苦手な方はご注意を!
これは二次創作上の表現です。これらの行為を助長、推奨を目的にしておりませんので、ご理解の程をよろしくお願い致します。  




(9話)




 あの二日間は、正に悪夢のようだった。
 満徳に解放されて、渡された彼は正気ではなかった。
 朦朧とする彼の意識とは裏腹に、その皮膚と、皮膚から得られる触感が性的なものに変換される。
 知っている。そう作用するように作り上げたのは、自分自身。
 影三は、私の薬で、狂わされていた。





Chapter 2-繊 弱-






 全身は汗で濡れ、体温が平均よりも高い。
 心拍数、血圧も異常な数値だ。何より、様子が明らかに普通ではない。
「……満徳……っ…早く……!…早くッ!…」
 何度も、何度も、何度も。
 うわ言のように彼はその名前を繰りかす。繰り返しながら、縋り付いて来る。
「…はやく…ッつ…ああ…もっと、つよく……満徳…ッ!」
 ベッドに押さえつけて、彼の顔を覗き込んだ。正気ではない。それは、分かっている。だが。
「影三、…私だ…影三…ッ!」
堪えきれずに、声を荒げて、名前を呼ぶ。
無駄だ。分かっている。だけど、こんなのは耐えられない。
「…影三…お願いだ…」
 彼が罰か。君を一人にした罪の罰なのか。
 それなら、何故、自分に直接降りかからない。
 卑怯だ。私が悪いのなら、私の身体を焼くなり、引き裂くなりすればいい。
 どうして、どうして、彼を使うのだ。
「…あッ!……ダメだ…満徳……痒い…!お願い……早くッ…!」
 正気ではない。分かっている。だけど、だけど、だけど。
 うわ言のように繰り返される、その名前。
 否定しない、君は、その名前を求めている。縋り付いている。
 分かっている。君が正気ではないのことは、分かっているのだけど。
 なんて、自分は、小さな人間なのか。
「影三…よく見ろ、お願いだから…その名を…呼ばないでくれ…」
 総てが、総てが崩れ落ちそうだ。
 修復が不可能なほど、粉々に。
 媚薬の成分から、それらの刺激をおさえるための中和薬を作成し、彼の腕に注射する。
 時間を置いて、何度か、何度も。
 それから、点滴を用意し、取り付けた。
「…満徳……ッ…!」
 ベッドの上に膝立ちになり、影三はジョルジュの体に手を伸ばす。
 熱く微熱を帯びた彼の身体は、求めるように縋り付いて来る。
 双眸は濁り、まるで夢の中を泳ぎつづけているみたい。
 摺り寄せてくる彼の下肢の熱を直に押し付けられ、ジョルジュの体温も一気にあがる。
 まるで、彼の微熱が感染したみたいだった。
「…はッ…あ…んん!……早く…」
 催促する淫靡な言葉。 
 紅く色づいた肌が艶めかしく、その声や言葉も、その総てが、ゾクッとするほどの嬌態だった。
 男の身体に興味がある人間なら、容易く堕ちるだろう。
「影三…休むんだ…頼むから」
 ベッドに押さえつけながら、ジョルジュは告げる。声が震える。平静を保ちながら。
 違う。違うんだ。私は、君を傷つけたくない。
 傷つけたくない。
 それなのに。それなのに。
「…愛してます…」彼の口から、言葉が落ちる。「…だから…抱いてッ…くださ…!」
「影三ッ!」
 不意に、彼の腕が伸びて首に回されたかと思うと、熱い唇を重ねられた。
 甘やかに吸われ、舌を絡められて舐られる。
 彼の感触、彼と混ざり合う唾液を啜り、気づくと、彼の口付けを夢中に貪っていた。
 息苦しくなると、僅かに唇を離し、空かさず、重ねる。
 身体を掻き抱くと、びくりと震えて自分にしがみついてきた。
 彼の熱い、熱い息遣い。
 その熱が私を乱す。呼び覚ます。彼が押し付けてくる下肢が形を変えるのを感じて、心臓が大きく跳ねた。
 熱い、熱い下肢。その熱が、私のものか、彼のものか、それとも互いのものなのか。
 張り詰めた理性が千切れてしまいそうだった。
 絡み合う下肢の感触に興奮する。
 その感触から生まれるもどかしい快感に、負けてしまいそうだ。
 服越しではなく、直に彼と触れ合ってしまえば。、
 そして、このまま、このまま、彼を-----------。


 振り切るように、ジョルジュは彼の身体を自分から引き剥がした。


「…あん…もっと…!」
 縋りつく彼の身体を、押しやった。
 今、自分は何を考えた…。ジョルジュは小さく息を吐く。
 これは、ただの薬のせいだ。彼の意思ではない。意思の反してされる行為に一番苦しむのは、彼自身だ。
 また、過ちを繰り返す気か。
 何度も何度も繰り返す。
 先ほど脳裏に浮かんだのは、息子の笑顔だった。
 そうだ。ここで負ければ、誰もが悲しませることになる。
 ここで彼を抱いてしまえば、一番苦しむのは、彼自身だ。
 自分がそうさせたのだ、と。自分がジョルジュを誘惑したと苦しむだろう。
 自分が、家族を、壊してしまう、と。
 彼は、彼は誰よりもジョルジュの息子を、キリコの事を心配していた。
 自分が、もう二度と息子に会うことが叶わないからか。だが
「…まって……もっと……」
その声に、決心が揺らいでしまう。
凄艶な表情に、胸が高鳴った。その表情に目が逸らせず、引き込まれそうになる。
 ジョルジュは、彼に使用するために持ってきた催眠鎮静剤を注射器に吸わせる。
 そして、その針を迷い無く自分の腕に突き刺した。
 そうでもしないと、とても正気でいられる自信がなくなっていた。

 丸二日。
 少しずつ、少しずつ薬の効果が薄れてくると、今度は熱発しはじめた。
 苦しそうな息遣い。だがそれが性的なそれではないことに、安堵する。
 そして、彼は二日経って、やっと意識をとりもどした。
 
 彼は、数日間の記憶を失っていた。

 それで、いいと思う。
 あの忌わしい行為など、覚えていなくてもいい。
 彼には、スーパーで急な熱発の為に倒れたのだと、告げておいた。
 その嘘を彼は信じ、穏やかな治療生活が再会された。
 正直に言ってしまえば、至福の時間のような、安寧さだった。
 それが、このまま、続けばいい。
 ずっと、ずっと、このままでいられれば、彼の傷もいつかは癒えるだろう。
 できるならば、一生、彼とこうしていたかった。
 自分の家族と共にでも、一緒に暮らして、自分の手元に彼を置いておきたかった。
 昔のように、君が、笑っていられれば。








 悪夢は終っているはずだった。


 



 鉛を詰め込まれたかのように、重い頭をゆっくりと振る。
 除雪という重労働の後だったからか、体中が軋んでいるようだった。
 ジョルジュは、ソファーの上で身体を起こし、奇妙な違和感を感じ取る。
 ひどく、覚醒の意識が重い。
 この寝起きの悪さは、不自然だ。まるで、薬物でも使用したかのような。 
「…影三…?」
 目を擦りながら、ジョルジュは名前を呼んだ。
 その声は、室内に響いたまま、何も起こらない。
 誰も、いなかった。
 静か過ぎる、室内。
 まるで、まるで、誰もいないかのような、ここには自分一人しか存在しないような。
 テーブルの上に、メモ帖のようなものが、置かれている。
 嫌な予感がした。
 見たくない。知りたくない。そう思いながら、ジョルジュはその紙片を手に取った。

『Farewell』

 彼の字でそれだけが、記されていた。
 まさか、これは、まだ悪夢の続きなのか。
 指先が震える。まるで奈落に突き落とされたかのようだった。
 ふと、背になにかが当たる。それはソファーの背もたれだった。
 力が抜けて、背中が背もたれに当たったのだが、それすらも気づかぬほどに、ジョルジュは動揺していた。
 彼を、早く探しにいかなくては。
 そう思うのに、体が動かない。動いてくれなかった。
「…影三…嘘だ……そんな……」
 動揺している場合ではない。
 早く、早く、彼の後を追わなければならないのに、身体が石にでもなったかのように動かない。
「……嘘だ…影三………影三…!」
 早く、探しに行かなければ。頭ではその言葉がうるさいぐらいに鳴り響いているのに。


「Be a lie!」


 その場に蹲り、ジョルジュは慟哭した。
 今まで堪えていた涙が、堰を切ったかのように溢れ出す。
 まるで獣のように、叫んでいた。
「嘘だッ!嘘だ!」
 堪えていた感情が、爆発したかのようだった。
 総てが、総てが、破壊尽くされた。
 あの男に、無残に、引き裂かれたかのようだった。


  
 





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