「もう、影三なんか。知らない!バカバカバカ!」
 ばふっ!ばふっ!と大き目の枕をジョルジュのベッドに叩きつけながら、みおは叫ぶ。
 八つ当たりに使われた枕は、憐れなことに少しだけ形を変えてしまった。
 その枕をそっと抱えて、みおはもう一度呟いた。
「本当に、バカ…」
 本音ではないけど、限りなく近い感情を口にしながら。















 
『彼女が家出をしました-解決編-』













 かちゃり。小さな金属音と共に、ドアが開く。
 みおは思わず、ドアから背を向けた。
 誰が入ってきたか、なんて分かっている。
「…みお、帰るぞ、ドクター迷惑だ」
 先ほどからみおが罵倒しつづける彼が、背後から声をかけてくる。
「いや」振り向きもせず、みおは「わたし、怒っているんだか」
「…その、悪かったよ」
「本当に?」
「ああ」
「じゃあ」みおは言った。「何を反省してるのよ」
「何をって…」
まるで子どもをしかるような問いかけに、一瞬詰まるのは、影三の方だった。
「その、目玉焼きにソースをかけたこと…だろ?」
「それだけじゃないわよ!」
 ばふっ!手にしていた枕を、もう一度ベッドに叩きつけて、みおが叫ぶ。
「”いただきます”とか”ごちそうさま”とか、ちゃんと挨拶をしてって言ってるでしょう!そんな基本的なことができていないと、子どもに影響でるんだから!」
「みお…?」
「子どもは、親の姿を見て育つの!」
「まさか」慎重に、影三は言葉を紡ぐ。「まさか、できた…のか?」
「できてません」
きっぱり。みおは言い切った。「でも、欲しいでしょう?」
「え。あ、ああ」
「じゃあ、今から父親らしくして!」
「…結婚もしてないのにか?」
「今からしたって別にいいじゃないの」
 当然のように、彼女は言い切った。
 あまりに無茶苦茶な話ではあったが。
 だが影三は、その無茶を言う彼女を背後から抱き締めた。
 あまりに無茶苦茶すぎて、滑稽とも言える会話だったけど。
 だけど。
「結婚、してくれるんデスカ?」
 耳元で、彼は囁く。
 改めて聞かれ、みおの頬が、かぁ…と紅潮した…。




 ちなみに、この会話の一部始終を聞いていたドクタージョルジュは、お祝いのケーキ作りを始めたという。
 二人が部屋から出てきたのは、ケーキの完成と同時であった。




(おわる)




※一応の解説。
この話は御影様の素敵サイト『re:W』にて展開されております、ジャピノ夫妻家出編に管理者が萌えに萌えて、
勢いで書いたものです。シチュエーションがあまりに御影様の漫画と似ておりますので、一応掲載許可はいただきました。
…と言いますか、御影様の素敵漫画とは程遠い話に…。
ただのイチャコラSSですね、これ。迷惑な間家です。ジョルジュはいい人だ(まったくだ)
御拝読ありがとうございました!