「ドクター、泊めてくれます?」 エドワードがドアを開けると、影三の妻である、みおがいた。 「…みおちゃん?一人?」 「うん」 「影三は?」 エドワードの問いに、みおはニッコリと笑って告げた。「ケンカしたの」 「珍しいね」 「あんまり頭に来たから、家出したの」彼女は言った。「ドクターのところに住み込むから…って」 「………は?……」 医学界の鬼才、エドワード・ジョルジュ。 目の前の女性の言葉が、咄嗟に理解できなかったのは、あまりに衝撃的な言葉であり、 数年前の悲劇を、克明に思い出したからであった。 『妻が家出をしました-カナダ編-』 「みおちゃん、今すぐ帰りなさい、お願いだから」 「いやです。もう、飛行機もないですし」 「今日はメアリがいないんだ」 「じゃあ、あたしがお夕飯作りますね」 「ああ、助かるよ…て、そういう問題じゃなくて」 「日本食でもいいですか?」 「うん、大丈夫…じゃなくて、みおちゃん、話を聞いてくれ」 「あ、すごい!お味噌にお醤油に…みりんまである!」 「みおちゃん…」 マイペースな彼女に、ジョルジュは本気で焦りだす。 今日は妻が留守なのだ。そこに友人の最愛の妻が宿泊なんて、その友人に知られたら、どんな惨劇がまっているか。 数年前。 やはりケンカが原因で、彼女はジョルジュの元へ家出をしてきた。 その時に、彼女を迎えに来た彼の形相を思い出すと、あまりに背筋が寒すぎる。 いや、決してジョルジュは間違いを起こす男ではない。 だが彼は、ジョルジュを女性にだらしない人間だと誤解している伏しがあるので、今回のことも彼にばれたら、 どんな惨劇が待っているか。 とにかく。 彼にバレナイうちに、迅速に彼女を日本まで送り届けることが、最優先だろう。 国際貨物便で送るのは無理だから、第一、日数が経ってしまう。 いっそのこと、自家用ジェットをレンタルして、日本まで送ってこようか。 そんなことを考えている時だった。 ぶぶぶぶぶ。 マヌケな音と共に、FAXが紙を吐き出した。 ぎくりと、ジョルジュはFAXを見る。 そこには、彼の字で、デカデカとアルファベッドが綴られていた。 ”Go to the hell. ” これが本気であることを、ジョルジュはいやというほど、思い知る。 次頁・恩知らず再び(笑)