「みお!お前、いい加減にしろよッ!!」
 どういう手段を使ったのか、ありえない速さで駆けつけてきたのは、みおの夫である、間 影三だ。
 だが、勢いつけて現れた彼は、室内で出迎えた、この家の主の姿に、驚きを隠せない。
「…ドクタージョルジュ?」
「そうだ」
くぐもった声で、答える。
「あの…時期外れの、ハロウィンですか?」
「…ああ、ミイラ男の仮装だよ」
 なるほど。現在、彼は、人相が分からないほど、包帯で覆われている。

















 
『妻が家出をしました-カナダ・解決編-』













「とにかく、帰るぞ!」
「いや!」
「職場の人に迷惑だろ!」
「じゃあ、影三が、一週間に一度にするって誓うなら、帰る!」
「バカ!毎日しないと意味がないだろう!」
「疲れているのにしても、意味がないでしょう!」
「意味がないわけがあるか!俺はドクタージョルジュのお陰で、いつもすっきりしてたぞッ!」
「男と女じゃ違うのよッ!」
 わあわあ言い合う二人の間に入り、ミイラ男…のようなジョルジュは、まあまあと諌めようとする。が
「あなた」メアリが低い声でジョルジュに尋ねる。「影三クンと、毎晩、何してたのよ」
「な、何もしていない!」
慌てて答えるが、影三がジョルジュの方を見て
「忘れたんですか?毎晩ベッドの上で…」
「エディ?」
「そ、んな覚えはないぞ!何かの間違いだ!」
「ほら」みおが言った。「ドクターも覚えてないって、言ってる」
「何言ってるんですか、エド!毎晩ベッドでしてくれたじゃないですか!足ツボマッサージ」
「…………なに?……………」
「立ち仕事だと、すぐに足が浮腫むから、毎日血行をよくしてやらないと…て。お陰で翌日にはすっきりと」
「影三のは痛いのよ!」
「ちゃんと本をみてやってるんだ、少しは我慢しろ!」
「なによ〜自分本位なだけじゃない!」
「まあまあ」
 二人の間に入って諌めたのは、メアリだった。
「影三クンも、みおのことを心配してるわけだし、二人はラブラブってことよね」
「え」みおは真っ赤になって「…う、うん…」
「ま、まあ、そういうことですか」
「足ツボは苦手な人もいるって聞くわ。湿布にしてみたらどう?」
「それなら、私も楽!」
「なら、そうするか」
「じゃあ、仲直りね。仲直りのキスでもしてきなさい!」
 メアリは笑いながら、二人を寝室に押し込んだ。
 ぱたん。
 ドアを閉めてから、メアリが笑う。「結局、ただの痴話ケンカよね」
「……私の怪我は、そのとばっちりか……」
「似合うわよ、ミイラ男」
「嬉しくないよ」


 ちなみに、ジョルジュの包帯がとれたのは、一ヵ月後だったという。
 

(おわる)