「ドクター、泊めてくれます?」
 エドワードがドアを開けると、影三の妻である、みおがいた。
「…みおちゃん?一人?」
「ううん」
「影三と?」
「ううん」
 エドワードの問いに、みおはニッコリと笑って告げた。「黒男と来たんです」
「…………ま、さか」
「二人で家出したの」彼女は言った。「今回は大丈夫!影三のパスポート、持ってきたから」
「………え……」
 目の前の彼女が手にしていたのは、日本国が発行しているパスポートであった。














 
『妻と息子が家出をしました-混迷編-』













「あらあ、いい考えね」
 ジョルジュの妻のメアリは、笑いながらみおに紅茶を淹れる。
 息子のキリコは、オトモダチが遊びに来た…と大喜びだ。
 だが、この家の主であるジョルジュだけは、青い顔だった。
「ドクター!大丈夫!今度は絶対に駆けつけることができないから!」
「いや、そういう問題じゃないよ…」
 そう、どちらかと言うと、彼女の行動は火に油を注ぎ捲くっているような気がする。
 あれで影三は、実は行動力のある未曾有の天才と呼ばれた男。
 何かとてつもない変化球で、カナダに駆けつけてくるに違いない(断言)
 ふと、テレビの画面に何かが横切った。
 それは、ニュース速報とタイトルのついた文章だった。
 

”I corner you without fail. ”


 これは、絶対に、影三の仕業だ。
 賑やかな室内で、ジョルジュだけが顔色悪く、怯えるのだった。
 




次頁・天才の考えることはよくわからん(笑)