※tui様の素敵エド影小説です!!!
前回までのあらすじは↓↓こちらをご覧下さい。
1(by不良保育士)
2(tui様)
3(by不良保育士)
5話(by不良保育士)
6話(tui様)
7話(by不良保育士)
8話(by不良保育士)
9話(tui様)
10話(by不良保育士)
11話(tui様)




(4)

「本当に大切なら、絶対に手放すんじゃない。守るんだ。命にかえてでもな」 

いつかどこかで聞いたことがある言葉だった。 
とてつもなく、何か嫌な予感がする。 
いけない、また信号無視だ。路面は濡れている。ただのスリップではすまないな、このままではたどり着く前に、こっちの身が持たない。 
冷静になれ、いつもの仕事のように。冷めた私を。 
何故だろう、人の死に直面する、いや、直接関わることに慣れているのに。 
彼のことになるとどうにも我を忘れがちになるようだ。 
そして父の前でも。 
死神の化身でなく、ジョルジュ家の長男、息子でしかなくなるようだ。 
感情が自分にも残っていたのだと思い知る。 
いけない、彼の、、奴の所へたどり着くんだ。思い出せ、思い出すことに集中するんだ、この雨と同じに、熱を冷ますんだ… 

そうだ、私が幼い日のことだった。嵐の夜、吹きすさぶ風の音。なかなか寝付けなくていた私は、喉が渇いて水を飲みにヒタヒタと。 
音? 

声? 

何か、何かの呻き声のようなものが聞こえて、導かれるように父の部屋へ足を向けた。 

何だろう? 
コッソリと、父の部屋のドアを開けた。 

覗いていたら、 父の様子がだんだんおかしくなって、そう、苦しく呻き出して。。 

何度も頭を床に擦り付けては、「すまない」だとか「許して」だとかを繰り返していた。 
まるで、まるで何かをとても後悔しているようだった。 
父が、父が声をあげて泣いていた。 
心配になって声をかけると、 
父は心配させまいと、取り繕って、 淋しそうな笑顔で、私を痛い程に抱きしめて、呟くようにこう言ったんだ。 

それから父はお前達家族の無事が私の1番だ。とか、家を守るのが親の責務だとか、まるで自分に言い聞かせるようだった。 
そんな父に違和感を感じた。 
拭えない違和感…数滴の雨粒が川になるように。月日の流れに沿って、いつしか父から心は離れていったのだ。 


まてよ。 

そうだあの時、何故父は取り乱したのだろう? 
どうして父はあんなに… 
まてよ、「だんだんおかしく」…だんだん? 
そうだ、私はしばらく覗いて、様子がおかしくなってきた父を心配になって…それから声をかけたのだ。
私はたった今父の部屋を通りかかったようにしたんだった。 
何故そうした。 
おかしいぞ。私は何を取り繕うつもりだったんだ 
何か見てはいけないものを見たから。後悔する父の様子? 

違う。 

そうだ。あの部屋でテレビを父は見つめていたんだ。 
私があけたドアの位置を考えると… 

何故気付かなかった!!? 

思わず俺はハンドルをきつく握り締めた。事故に遭わないために思考を働かせたというのにも関わらず。
胸が苦しい、、ああ、これが動悸というやつだ。。 
見えていたはずだ。何を見て父がああなったのかを。 

私は見たはずだ。何かいけないモノを。何故今まで思い出さなかった? 
いや、思い出せなかった。 
分析するんだ。 
何故思い出せないのか、それは子供心を傷つけるようなトラウマだったからか。 
それなら納得がいく。今まで何の疑問も持たずに忘れていたことにも。 

先程の父の言葉を頭に巡らせて、その記憶を思い出してみる。いや、思い出さなければならない。 それに向かい合う時が来たのだ。 
俺と父の距離の始まり。。 
「大河の一滴」の始まりを。 
水底にある記憶を 

テレビからは音、いや、声がした。何を言ってた?
父の名前だ、父の名前を必死に呼ぶ声。何だか気味が悪い不愉快な水の音。
それに合わせるようにして呻き声を漏らし、苦しげに助けを求める声。
息切れして途切れそうな。まるで拷問されているようだった。 
呻くように、絞り出すように父の名前を唱え続けて耐えていた。狂わないように。 
声の主は…暗くてはっきりとは見えない。ただ、どこかで見たような 
いや、似ているのかもしれない、誰かに似ているような 


何故今、今こんなことを考えている。 



そんな馬鹿な。俺が見たのは… 



「ブラックジャック」 





「エドワード。」 

何度も、何度も、何度も。 
私の名前を読んでは助けを求めていた彼。 
どうして?君がそんな目に。忘れたくても忘れられないあの画像。 
躯を切り裂かれていく彼の姿。 
痛い。痛いんだね、影三。 
誰が、誰がそんな酷いことをするんだ。 
顔見知りなのか? 
君を裏切ったんだね。 
「いやだ…助け…」 
助けようと動くと、それに合わせるように呻き声が漏れる。 
誰が、誰がそんなに酷いことを。 
全満徳か?! 
また、動こうとすると傷ついたような声がする 

誰が、誰が酷いことを。 
必死に助けを求めて恋人の名前を呼んでいるというのに、無理矢理、何度も何度も抱いて。 

恋人の名前。 
それは、私の名前のはず 

『あぁ…やめ…リコ』 

『た…すけ…キリコ』 

それは、、私の名前ではなく、苦しめているのは… 

忘れられずにいた画像。 
黒男君を抱いたその時から。逃れられない罪をおった。 
ここに来るまで目まぐるしく動いたので正直疲れが出てきた。目眩に目をつぶると思い出す。
暗闇の中、嵐の夜。 
全満徳に凌辱される黒男くんにそっくりの影三。
助けを求める影三が黒男君の姿と重なり合うように、全満徳が私自身と重なり合う。 

あれほど嫌悪していた男と何が違うのか。 
仕方ない状況だったとはいえ、影三を重ねて、思いを遂げようとした部分はない、ないとは言い切れない。 
目を伏せる度に思い知ってしまう。 

影三、君を思う時。嫌悪した人間になれるんだよ。 
君を支配して、苦しめる人間にもなってしまうんだ。 

ほの暗い水の底に沈む何かが目覚めたみたいに、自分の心の深淵を覗いて気付いてしまったよ。 

君のためなら人間を捨てることぐらい、なんでもないことだと。 
君のためなら、命を捨てることぐらい、なんでもなかったのだと。 


『君にしか効果がない』 
つまりは君には効かなかったんだ。冷静に考えればわかることなのに。 
『迷わないでくれ』 
わざわざ急かすようなことを言って…君はこうなることを分かっていた。私が君を第一に考えるだろうことも。だから、だから 
『私を、、助けて、私の希望を』 
君の希望が黒男君なら、私の希望は君なんだよ。 
『私を助けて』だろう? 
君は息子を、私を助けてばかり。 
君自身は誰が助けるつもりなんだ? 


溜まっていた何かが、せきを切って流れだしたようだ。 
時が何かを刻み始めるみたいに。時が、後戻りをすることはない。 

この川の行き着く先は… 


キリコはもう黒男君のもとに着いただろうか。 

影三、今度こそ君を助けにいくよ 





大河の一滴
次頁 -------------------------------------- ※つづき---続きです!続きをいただいいてしましました!!苦悩するエドワード!すっごい!素敵!もっと悩んで!(←鬼…) 全満徳作成の、『影三裏ビデオ』(笑)は、以前、私が某様宅へ献上しました小説にありまして、 全満徳が影三を陵辱する一部始終を撮影し、それをエドワードに送りつけたという、嫌がらせ以外の何物でもない話がベースと なっているそうです!おおおお!すごい!それがこんな風に繋がっちゃうなんて!tui様の構成力の巧さと視点がお見事です! >影三、君を思う時。嫌悪した人間になれるんだよ。 これが切ない!切ないです!! 影三の頼みとはいえ黒男に手を出した時の彼の心情…tui様も述べられておりましたが、エドワードは相手を陵辱することで性的興奮を 得られる性格ではないので、恐らくドコかで黒男に影三を重ねて、長い間愛しつづけてきた彼を抱いていると思わざる得なかったのでしょう。 ですが、そう思えば思うほど、彼を陵辱する全満徳と自分の姿が重なってしまい、エドワードは苦悩するわけです。 自分のしていることは、殺したいほど憎んだ男と一緒だ、と。 負の連鎖ですね。そこからエドワードは抜け出せるのか。 そして、冒頭のキリコ先生--!!!信号無視で駆けつけちゃうんですね!素晴らしい! 無事にたどり着いていると良いのですが…。 もう、この発想の深さにメロメロです! tui様、本当にありがとうございました!!!